夜明けが世界を染めるころ

ティアナside

(……共鳴)

力をぶつけるんじゃない。
流れを読み、循環させる。

そうすれば、相手を強くすることもできるし、
守ることもできる。

――ナタリーさんの言葉が、脳裏によみがえる。


訓練は、何度も繰り返してきた。
まさかこんな形で、実践することになるとは思っていなかったけれど。

最近重点的にやっていたのは、
“仲間を強くするための共鳴”。

複数の魔力を束ね、底上げするための技術だ。

でも――今、必要なのはそれじゃない。

(魔宝石に、直接語りかける)

――浄化。

浄化とは、断つことではない。

壊すことでも、押さえつけることでもない。

同質の宝石は、刃を介さずとも響き合い、
心の歪みを正しい位置へ戻す


私は剣を握る。

柄に嵌め込まれた宝石が、
淡く、静かに光を帯びた。

(ラピスラズリ……)

私の剣の宝石。
誓いと理性を宿す、蒼の石。

そして、目の前にある――
歪んだ感情を溜め込んだ、魔女の雫。
だけど、水中が驚くほど穏やかだ。
ディランの魔力を感じる。
さすがだ。一人じゃない…そう思えるだけでこんなに心強い。

(同じ“宝石”なら……)

そっと魔力を流し込む。

(響いて)

ラピスラズリの光が、水中で広がる。
柔らかく、しかし確かな意思を持って。

魔女の雫が、震えた。

拒絶ではない。
戸惑いの揺れ。

(大丈夫……戻れる)

私は心を澄ませ、
石の奥に溜まった歪みへと語りかける。

誰かの記憶…
嫉妬
失恋…叶わなかった願い。


それらを否定しない。

ただ、正しい位置へ。

蒼い光と、黒く濁った輝きが、
ゆっくりと重なり合う。

――カン、と。

水中で、小さな音が響いた。

それは、壊れる音ではなく。

整う音だった。

魔女の雫から、黒い靄がほどけていく。
絡まっていた呪いが、静かに、静かに溶けていく。

(……浄化、成功)

(あとは……)

私はマルクとナナ嬢を見る。

水越しに、マルクと目が合った。

――通じた。

私が小さく頷くと、
マルクは迷わずナナ嬢を抱え、
力強く水を蹴って上へ向かう。

(……大丈夫)

その瞬間、視界が白く霞んだ。

(上、まで……)

意識が遠のきかける。
肺が限界を訴え、息が――

(……だめ、もう……)

そのとき。

柔らかな光の魔力が、
私たちを包み込んだ。

下から押し上げるように、
水の流れそのものが変わる。

(……ディラン)

迷いのない、静かな魔力。
焦りを押し殺した、冷静な判断。

剣のラピスラズリが、
最後に淡く瞬いた。

役目を終えたように。

――「よく、やった」

そんな声が、
水越しに、確かに聞こえた気がした。

そのまま、
私は光と水に抱かれながら戻ってきた。