「ティアナ、この近くにきれいな湖があるんだ。行かないかい?」
「ええ」
「じゃあ決まりだ」
そう言うと、彼は当然のように私の手を引いて歩き出した。
◇
辿り着いた湖は、本当に美しかった。
水面には蓮の花が浮かび、太陽の光を受けて幻想的に輝いている。
――ほんの数分前までは。
「やあ、妹よ。奇遇だな」
最悪のタイミングで聞こえる、聞き慣れすぎた声。
「……ごきげんよう」
苦笑いで振り返ると、そこには腕を組んで得意げな兄、マルクがいた。
「最近見ないと思ったら、不良にでもなったのか?」
余裕ぶった態度だったが、
次の瞬間、私の背後を見たマルクの顔色が一気に変わる。
「……で、でんか!?」
「やあ」
ディランはにこやかに手を振った。
どこからどう見ても爽やかだが、私は知っている。
――この人、絶対面白がってる。
マルクは一瞬完全に固まり、
次の瞬間、なぜか私に詰め寄ってきた。
「お、おい妹!
リチャードに続いて、今度は殿下だと!?
お前、男を見る目なさすぎるじゃないか!」
「あの……」
リチャードの件はずっと断ってたし、
殿下とはあくまで契約上の関係で――
「いいか!
まだ銀髪で氷みたいな目の騎士か、
エセ笑顔の腹黒執事の方が――」
「腹黒、とは?」
背後から、やけに柔らかい声。
振り返らなくても分かる。
今、笑顔の圧が最大値。
「ひっ!?」
マルクが情けない悲鳴を上げて跳ね上がった。
「い、いえ!
今のは決して殿下のことを指したわけではなく!」
「そうなんだ」
ディランはにこやかに頷き、私の肩にそっと手を置く。
「ちなみにね」
嫌な予感しかしない。
「ティアナと、婚約したんだよ」
「はああああ!?」
マルクの声が湖に響いた。
「こ、こんやく!?
愛の逃避行でもするのか!?
最近見かけなかったのはそういうことか!?」
完全にテンパっている。
「い、いえ、そうではなくて……」
私は曖昧に言葉を濁す。
ディランは満足そうに微笑みながら、
マルクの肩をぽんと叩いた。
「安心して。
妹さんは僕が責任をもって“お預かり”しているから」
「余計に不安なんだが!?」
マルクは頭を抱えたあと、突然顔を上げた。
「と、とりあえず!
せっかく来たんだ、ボートにでも乗るか!?」
話題転換があまりにも唐突だった。
こうしてなぜか、
私、ディラン、マルク――そしてもう一人。
「ナナと申します」
「……ナナ嬢?」
昔、ユリアともめた令嬢。
確か10年前…ユウリがお試し執事として屋敷にきてたときだ。
「ええ」
「じゃあ決まりだ」
そう言うと、彼は当然のように私の手を引いて歩き出した。
◇
辿り着いた湖は、本当に美しかった。
水面には蓮の花が浮かび、太陽の光を受けて幻想的に輝いている。
――ほんの数分前までは。
「やあ、妹よ。奇遇だな」
最悪のタイミングで聞こえる、聞き慣れすぎた声。
「……ごきげんよう」
苦笑いで振り返ると、そこには腕を組んで得意げな兄、マルクがいた。
「最近見ないと思ったら、不良にでもなったのか?」
余裕ぶった態度だったが、
次の瞬間、私の背後を見たマルクの顔色が一気に変わる。
「……で、でんか!?」
「やあ」
ディランはにこやかに手を振った。
どこからどう見ても爽やかだが、私は知っている。
――この人、絶対面白がってる。
マルクは一瞬完全に固まり、
次の瞬間、なぜか私に詰め寄ってきた。
「お、おい妹!
リチャードに続いて、今度は殿下だと!?
お前、男を見る目なさすぎるじゃないか!」
「あの……」
リチャードの件はずっと断ってたし、
殿下とはあくまで契約上の関係で――
「いいか!
まだ銀髪で氷みたいな目の騎士か、
エセ笑顔の腹黒執事の方が――」
「腹黒、とは?」
背後から、やけに柔らかい声。
振り返らなくても分かる。
今、笑顔の圧が最大値。
「ひっ!?」
マルクが情けない悲鳴を上げて跳ね上がった。
「い、いえ!
今のは決して殿下のことを指したわけではなく!」
「そうなんだ」
ディランはにこやかに頷き、私の肩にそっと手を置く。
「ちなみにね」
嫌な予感しかしない。
「ティアナと、婚約したんだよ」
「はああああ!?」
マルクの声が湖に響いた。
「こ、こんやく!?
愛の逃避行でもするのか!?
最近見かけなかったのはそういうことか!?」
完全にテンパっている。
「い、いえ、そうではなくて……」
私は曖昧に言葉を濁す。
ディランは満足そうに微笑みながら、
マルクの肩をぽんと叩いた。
「安心して。
妹さんは僕が責任をもって“お預かり”しているから」
「余計に不安なんだが!?」
マルクは頭を抱えたあと、突然顔を上げた。
「と、とりあえず!
せっかく来たんだ、ボートにでも乗るか!?」
話題転換があまりにも唐突だった。
こうしてなぜか、
私、ディラン、マルク――そしてもう一人。
「ナナと申します」
「……ナナ嬢?」
昔、ユリアともめた令嬢。
確か10年前…ユウリがお試し執事として屋敷にきてたときだ。
