夜明けが世界を染めるころ

訓練が続くなかで、
ナタリーさんの病状は急速に悪化した。

白いカーテン越しの光の中で、
ナタリーさんは穏やかな笑みを浮かべていた。

「最後まで見届けられなくてごめんね。
でも……もう私は、貴女に教えられることもないから」

「ううん、ナタリーさん。ありがとう」

私はそう答え、ナタリーさんの手を取った。
細くなった指は、それでもまだ温かい。

「ナタリーさんは、別の場所で療養できるよう、手筈は整えてあります」

そう言って、ディランも一歩前に出る。

「静かな環境です。どうか、ゆっくり過ごしてください」

彼女は驚いたように目を瞬かせ、
それから、ふふ、と小さく笑った。

「最後に、こんな色男に手を握ってもらえるなんて。
幸せ者ね、私は」

「ありがたいお言葉です」

ディランは柔らかく微笑み、
そっとその手を包んだ。

 

「……ナタリーさん」

ユウリが一歩前へ出る。

「ユウリ。お嬢様のこと、よろしくね」

「はい」

静かに、けれど確かな声で答える。

「お嬢様は無茶をなさるから。
今は、あなたの方がずっと詳しいでしょう?」

「……はい」

ユウリは、にっこりと微笑んだ。

 

「最後に、みんなに会えてよかったわ。
これで思い残すこともない」

「そんな……お別れみたいに……」

「もう私もおばあちゃんよ。
余命も、わずかだもの」

ナタリーさんは穏やかに目を細める。

「十分よ。
最後にお嬢様と、ちゃんと話せてよかった」

そして、静かに微笑んだ。

「アイリス様も、きっと――
貴女が立派になったこと、喜んでいらっしゃるわ」

「……はい」

声が、わずかに震えた。

 

そして――
ナタリーさんは、ディランの計らいにより、
療養施設へ移されることになった。

それは別れではなく、
“静かな時間を過ごすための旅立ち”だった。

その背を見送る。
今はただ、
彼女から受け取ったものを胸に刻み、前に進む。