夜明けが世界を染めるころ

話は自然と、最近のことにも移る。

「本を送った理由も話そうかな」

「本…」
10年近くも贈り続けてくれた本。

「うん。君にコツコツと渡していた本の数々」

彼は少し照れくさそうに笑う。

「君に読んでほしかったんだ。
単純に、私の大切にしているものを知ってほしかっただけだよ。
そして……これを通して、少しでも私の考えや思いに触れてほしいと思った」

その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。

「なるほど……」

ディランは軽くうなずき、少し目を細めて私を見つめる。

「君に知ってほしかったんだ。
私のことも、私の世界のことも」

ディランはそっと手を伸ばし、指先で私の手に触れた。
驚くほど柔らかく、壊れ物に触れるような優しさ。

「無理に近づくつもりはないよ」
低く、穏やかな声が耳に届く。

そして、ゆっくりとその手を撫でるように触れられると、じんわりと温かさが伝わった。
強く握るでも、引き寄せるでもなく、ただ――そこにいることを確かめるような触れ方。

私は息をひそめ、そのまま手を引かずにいた。

ディランは目を細め、静かに微笑む。
「こうして、少しずつでいいから……君の隣にいたい」

触れた手の感触が、言葉以上に胸の奥まで響く。

「……」
どう答えればいいのかわからず目を伏せる。
ディランはそっと微笑むと手が名残惜しそうに離れていく。
言葉にはできない気持ちに戸惑いながらも、胸の奥が少しだけ高鳴る。
手に残る温もりに、自分の心が何を感じているのか、まだはっきり言えないけれど、確かに何かが揺れている。