夜明けが世界を染めるころ

ナタリーさんはページの端をなぞる。
文字は古く掠れているが、その内容は明瞭で、読むほどに息を詰める。

「ガイルは……アイリス様の力を利用して、
王国の支配者になろうとしていたの。」

「……それをお母様は、封印したんですね。」

「ええ。彼女が守ろうとしたのは――単なる研究ではない。
王国の秩序をも揺るがす力だった。」

私の胸が、強く打たれる。

(――この力……共鳴のこと……)

「これを」

ナタリーさんが差し出した本を受け取る。

ページをめくる。
そこには《共鳴論考・原初魔力と魂の連結について》と題された古文書の抜粋。

人は生まれながら固有の魔力波長を持つ。
魔宝石はその波長を増幅する媒介にすぎない。

魔宝石は、魂の波長を揃えるための門にすぎない。
ひとたび門を越えれば、魔力は石を離れ、
人と人の魂のあいだを直接巡る。

しかし、例外が存在する。

魂と魂が同調するとき、魔力は石を介さず循環し、肉体・精神・記憶にまで干渉する現象――
《共鳴(レゾナンス)》。

指先が、無意識に震える。

(……止血、修復、記憶の流入……)

条件は三つ。

一、互いの魔力波長が限りなく近いこと
二、強い感情――信頼、愛情、執着、あるいは絶望
三、片方がもう片方を**「生かしたい」と強く願うこと**

そして、共鳴は奇跡であると同時に、危険も孕む。

循環が均衡を失えば、片方が片方を“喰らう”形で一体化し、
それは最終的に魔女の紅血へと変質する――

端の書き込みが目に入った。

『紅血は宝石を必要としない。
人が人を媒介にしたとき、最も純度の高い紅血が生まれる』

胸が、ひりつくほど熱くなる。

――つまり。

「ガイルの野望はね。アイリス様の血と魂を利用して、紅血を作り、王国を掌握することだったの。
アイリス様はそれを阻止するために、自らの存在を封印し、力を守った」

「そして――今、力の“器”はティアナお嬢様貴女にに受け継がれているの」

ナタリーさんの言葉に私は、静かに拳を握る。

(――私は、この力を使うのか。
使わずして、ガイルを止められるのか?
犠牲を避けつつ、共鳴の奇跡を――母の意思を――)

ナタリーさんは、私の決意を見透かすように頷いた。

「ティアナお嬢様。…今、貴女に問うべき時が来たわ。
力を制御し、守るべきものを守るか。
それとも、何もしないか――」