夜明けが世界を染めるころ

ナタリーさんは静かに息を吐き、視線を遠くに向けた。
そしてゆっくりと語り始める。

「アイリス様の最後の選択――
それは、“自らを器にすること”でした。」

私たちは言葉を失った。

「器……?」

ユウリが、かすかに声を震わせる。

「はい。アイリス様は、あの研究の最終段階で気づいたの。
魔宝石にとって“特別な器”は、彼女の血を引く者しかなり得ないと。」

「……だから、あの事故は……」

ナタリーさんの声が、わずかに震えた。

「偶然ではない。
実験中の“暴走”と見せかけるため、自らを石の反応に委ねたの。」

胸が締め付けられる。

「自分の命を賭けて、
研究を完成させるため、そして娘――ティアナ様を守るために。」

言葉を噛み締めるように、ナタリーさんは続けた。

「彼女は知っていたの。
もし真実が王国に知られれば、ティアナ様も危険に晒されることを。」

「……それで、封印したのですか?」

「ええ。」ナタリーさんは頷く。
「研究を封じ、全てを隠すことで、アドルフ様とアイリス様が、ティアナ様を守る時間を稼いだの。」

「……お母様は、私を守るために……」

私の胸が熱くなる。
同時に、言いようのない恐怖も押し寄せる。

「その選択は……孤独で、残酷なものだった。
だけど、アイリス様は迷わなかったのよ。」

ナタリーさんの声は静かだが、強い意志が込められていた。

「命を賭けて、研究を完成させる――
そして、娘を未来に残す。」

私の視線が、揺れる。

「……お母様……」

ナタリーさんは、ゆっくりと微笑んだ。

「だから、ティアナ様。
あなたはただの“子”ではない。
母の研究の証、そして、未来を繋ぐ存在なのよ。」

胸に重く、しかし確かな光が落ちた。
母の選択――犠牲と愛が、初めて、はっきりと私の前に姿を現した。