夜明けが世界を染めるころ

――いつもの背中を、見つけた。

「ユウリ。」

呼び止めると、ユウリは振り返り、慌てた私の様子に目を丸くする。

「どうされました?」

「ナタリーさんに、もう一度会いたいの。」

「……それは、どういうことですか?」

私は息を整えながら言った。

「ナタリーさんは、ボケてなんかいなかった。
知らないふりをしていただけよ。」

そのまま、施設で起きた出来事を、ひとつ残らずユウリに話す。
「後ろの2人は誰?」と聞かれたこと。
数の合わない視線。
そして、あの違和感。

話を聞くうちに、ユウリの表情が変わった。
彼もまた、何かに気づいたように息を呑む。

「……私としたことが……」

私は頷き、そっと掌を開く。

「それで、これ。ナタリーさんから託された花の種。
ラナンキュラスっていうんだって。オレンジの花を咲かせるの。」

小さな種が、静かに光を受ける。

「花言葉は――『秘密』。」

言葉にした瞬間、確信が胸に落ちた。

「ナタリーさんは、何かを知ってる。
それも、かなり重要なことを。」

ユウリは一瞬考え込み、すぐに決意したように頷いた。

「……わかりました。
すぐに施設に連絡します。」

その声は迷いがなかった。


「……お嬢様。」

その声は、いつもより低かった。

「ナタリー様が、亡くなったとのことです。」

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

「……うそ、でしょ?」

喉がひりつく。

「まさか……殺されたの?」

「いえ。医師の見解では、病死のようです。」

けれど、その言葉は続いた。

「ですが――ナタリー様が急に具合を悪くされたのは、お嬢様と面会された夜だと。」

胸が、嫌な音を立てて沈む。

「その後すぐ病院へ運ばれ、死亡が確認されたようです。」

「……どこの病院?」

嫌な予感が、はっきりと形を取る。

「セイドリック病院です。」

その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。

「セイドリック病院……」

アレキサンドライト王国と、深い繋がりを持つ病院。
王族、貴族、そして――裏の案件も扱う場所。

「……まさか。」

唇が、かすかに震える。

「…関わってる?」

自分でも信じたくなかった。
それでも、疑念は止まらない。

私は懐から、小さなコンパクトを取り出す。

「それは……何ですか?」

「魔宝具よ。ディランからもらったの。」

ユウリの視線が、一瞬だけ揺れた。
――“ディラン”という呼び方に、わずかに反応したのが分かった。

けれど彼は何も言わず、問いただすこともせず、ただ黙って聞いている。
その沈黙が、かえって事態の重さを際立たせた。