夜明けが世界を染めるころ


「おはようございます、お父様」

「ああ」

こちらには目を向けず新聞を読んでいる。
見出しには宝石事件の文字がみえる。

レオが私の椅子を引いてくれ、腰を掛ける。
手際よく朝食の準備をする。
威圧感のある人で恐れる使用人もいるけれど、レオは堂々とした立ち振る舞いだ。

「本日の朝食はマッシュルームサラダ、ほうれん草とベーコンのキッシュ、ローストビーフ、バターロール、カボチャスープになります。デザートはミルクプリンとフルーツ盛り合わせになります」

料理の説明をさっと終え紅茶を入れたレオは私に微笑みかけ、去っていった。
私は彼の誰に対しても堂々としていて、裏表のない性格が気に入っている。
そして料理がとても美味しい。

レオが出て行ったことを確認した父がようやく新聞から私に目を向ける。
鋭い眼光が私を捉え、背筋がピシャリと伸びる。


「宝石事件は、すでに王国騎士団の管轄だ」

それだけ告げて、父は視線を朝食に戻す。いつも通り、無駄のない動作で朝食を口に運んでいた。
感情を挟まないその所作は、王国でも名高い冷徹さの象徴だ
けれど私は知っている。
父がこういう言い方をするときほど、事態は深刻だ。

ちまたで騒がれている宝石。
パン屋の奥さんの話もそうだが他にも似た事例がおきている。触れた者の性格を歪め、欲望や怒りを増幅させる――
そして私には、それが黒いモヤとして見える。

悪意ある宝石だけに、まとわりつくような濁り。
初めて見たとき、息が詰まったのを今でも覚えている。

「お前は関わるな」

父の声は冷たく、命令そのものだった。
理由の説明も、慰めもない。

「…ですが」

父のナイフを持つ手が、わずかに止まっている。

「その力を使うべきではない。王国にいいようにされるだけだ。余計な事はするな」

低く落とされた一言は、私を心配してのことなのか面倒事を避けたいだけなのか定かではないが。

「私は――」
言いかけた私に父の眼光が鋭く向けられる。

「何度もいわせるな、わかったな」

「はい」
これ以上無駄だな。
父は私のことよりも立場を大事にしている人だ。仕方がない。

紅茶の表面に、私の顔が揺れる。


朝食会を静かに味わいながら頭の中では宝石事件のことを考える。

父が隠したがるこの力こそが、やがて宝石事件の核心に触れてしまうことをまだ私は知らない…