夜明けが世界を染めるころ

戻ると、殿下の姿が見えた。

「待たせたね」

「いえ」

殿下と向き合って腰を下ろす。

「では、結婚について内容を詰めようか」

「……婚約です」

「婚約、ね」

殿下は小さく言い直し、こちらを見る。

「まず一つ。お互い婚約者同士として、誰にも偽物だと悟られないようにすること。
二つ。目的を達成するまで、この関係は継続すること。
これでいいかい?」

「“目的を達成するまで”と言いましたが、どのくらいの期間を見ているのですか。
あまりだらだらと長引くのは避けたいのですが」

「できれば一年以内にどうにかしたい」

「わかりました」

「他に条件はあるかい?」

「……お互いを信用できないと判断した場合は、どうしますか」

殿下が“本音で話す”と言った約束を破った時のため、それも付け加える。

「その時は協力関係は成り立たない。契約破棄で構わないよ。
それから、君の安全が最優先だ。危険だと判断した場合は、すぐに手を引いてもらっていい」

「随分とお優しいですね」

「いつもだよ?」

……どうだか。

「では、話をまとめますね」

レイさんが静かに口を開き、殿下と私の双方を見る。

「一つ。婚約者として、偽物と悟られないよう振る舞うこと。
二つ。目的を達成するまで関係を継続すること。
三つ。お互いを信用できないと判断した場合、また命の危機があると判断した場合は、契約破棄が可能である。
以上に相違はありませんね」


殿下は一拍置いてから、ゆっくりとうなずいた。

「問題ない」

視線がこちらに移る。
逃げ場のない、確認の目。

「……私も、相違ありません」

その言葉を口にした瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。
引き返せない線を、今、はっきり越えたのだと実感する。

「では――」