夜明けが世界を染めるころ

ティアナside

殿下を信じる、ではない。
殿下の“言葉”を信じるのでもない。

ただ、
本音で話すと約束した、その一点だけを信じる。

殿下が差し出した本のページをめくるたび、
そこに書かれていたのは知識だけじゃなかった。
考え方、選び方、迷い方――
生き延びるための思考そのものだった。

もし私を駒として扱うつもりなら、
あんな回りくどい優しさは不要だったはずだ。

……だからこそ、厄介なのだ。

殿下は嘘をつく。
それも、守るための嘘を。
真実を隠すために、真実を混ぜる。
気づけば相手の足場だけが、静かに揺らいでいる。

それでも。

契約上の婚約者として隣に立つなら、
剣を抜くより先に、言葉を抜かなければならない。

「殿下には……?」

あのとき、私は好きではない、そう答えた。
それは本心だ。

けれど、
嫌いだとも言えない。
信用していないとも、言い切れない。

だから私は決めた。

次に殿下が嘘をついたら、
私は逃げない。
問いただす。

次に殿下が本音を見せたら、
私は目を逸らさない。

命を預けることになるかもしれない関係だからこそ、
甘さではなく、覚悟で向き合う。

――本音で話すと、約束したのだから。

その約束を破るのが殿下なら、
私は婚約者としてではなく、
一人の人間として、殿下に刃を向ける。

静かに、そう決めて、
私はユウリの待つ場所へと歩き出した。