夜明けが世界を染めるころ

自室のカーテン越しに、やわらかな朝の光が差し込んでいる。
アリスが用意してくれた軽食をテーブルに広げ、私は椅子に腰掛けた。

焼きたてのパンの香り。
昨夜の出来事が嘘みたいに、部屋の中は穏やかだ。

向かいに立つユウリが、少しだけ言葉を選ぶようにして口を開いた。

「……昨夜のことですが」

「うん」

「お嬢様は、どう思われますか」

「どう、って?」

「殿下のやり方です」

私はパンを一口かじり、もぐもぐしながら考える。

「んー……」

少し間を置いて、正直に言った。

「冷静で、合理的だったね。
宝石の被害を、これ以上広げないための判断だったし、
感情を挟めば、もっと犠牲が出ていたと思う」

ユウリは静かに聞いていたが、やがて眉を寄せる。

「それでも私は…お嬢様を“駒”として扱ったことを、許せません」

その言葉に、私はきょとんとする。

「んー……それ、ちょっと違うな」

「え?」

今度はユウリがきょとんとした。

私はもう一口パンを食べてから、ゆっくり言う。

「あれはね、あの人なりの優しさだよ」

「……優しさ、ですか」

私は頷いた。

「あの人は、冷静で合理的な判断をして…
それを、ちゃんと私に見せた」

「これが自分のやり方だって。
変えるつもりはないって」

ユウリは黙っている。

「でもね…それを見せた上で、最後まで逃げ道をくれた」

私は指でパンくずを払う。

「まだ引き返せるって…
何も知らなかった頃の私に、戻してあげるって」

「……そんな思惑が、あったとは」

ユウリは、少し考え込むように目を伏せた。

「だから、まどろっこしいんだよ…殿下はさ」

その言葉に、ユウリが小さく息を吐く。

「……そのことを、殿下には?」

「言わないよ」

即答する。

「私のこと、試したんだもん…
本音で話すって言ったくせにさ」

私は人差し指を立てて、にやりと笑う。

「だから、これくらいの意地悪はいいでしょ?」

一瞬の沈黙のあと――
ユウリが、ふっと笑った。

「……お嬢様には、敵いませんね」

朝の光が、少しだけ強くなる。

昨夜の出来事は、まだ終わっていない。
それでも私は、自分の立っている場所を、ちゃんと理解していた。