ユウリside
「ユウリ、だけ残れ」
その言葉に即座に応じると、
お嬢様は特に気にも留めた様子もなく、執務室を出ていった。
扉が閉まるのを見届けてから、
私は改めてアドルフ様と向き合った。
「ティアナのお見合いの件だが……どうだ?」
「候補者の方々とはお会いしましたが、
今のところ気になる方はいらっしゃらないようです」
「そうか」
アドルフ様は小さく頷いた。
「まあ、そう急いでいるわけでもない」
一拍。
鋭い視線が、真っ直ぐこちらを射抜く。
「……ユウリ。お前はどうだ」
――試されている。
執事としてか。
それとも、“男”としてか。
「私、ですか?」
「ああ」
一瞬だけ、胸の奥がかすかに疼いた。
だが、それを表に出すことは許されない。
出してはならない。
「お嬢様は、私をそのようには見ておられません」
淡々と、事実を述べる。
「また私自身も……
お嬢様に、そのような感情を抱く資格はございません」
守るべき方に、欲を抱く資格はない。
それが、私自身に課した唯一の誓いだった。
言い切った声に、揺らぎはなかった。
アドルフ様は、しばし私を見つめ――
やがて、小さく息を吐いた。
「そうか。お前をティアナの執事にしてよかった」
「……有難いお言葉です」
胸の奥で、安堵とも違う静かな熱が灯る。
「……ティアナが、
だいぶ突っ込んでいるようだな」
隠すつもりはなかった。
取り繕うことに意味はないと、最初から分かっていた。
「はい」
短く、しかし迷いのない返答。
叱責はなかった。
アドルフ様はわずかに視線を落とし、低く告げる。
「ユウリ。ティアナを頼んだぞ」
たったそれだけ。
だが、それは命令ではなく――
覚悟を託す言葉だった。
「はい。承知しております」
深々と頭を下げる。
守ると決めたのは、今に始まったことではない。
あの方が泣いた日も、
笑った日も、
剣を取ると決めた日も。
すべての傍らにいると、私は決めていた。
――その頃。
執務室の扉の外。
お嬢様は壁にもたれ、何食わぬ顔で立っていた。
「……お嬢様、盗み聞きですか?」
「全部は聞こえてないよ。ちょっとだけ」
悪びれもせず、肩をすくめる。
「お父様ってさ、ユウリには優しいよね」
「……そうでしょうか」
「そうだよ。かなり気に入ってる。
私より信頼されてるんじゃない?」
冗談めいた口調。
けれど、その奥には微かな寂しさが混じっていた。
私は、ただ微笑む。
「それでも私は――」
一歩下がり、いつもの距離で頭を下げる。
「お嬢様の執事であることを、誇りに思っております」
それ以上の言葉は、必要なかった。
想いは、口にしないからこそ守れるものもあるのだから。
「ユウリ、だけ残れ」
その言葉に即座に応じると、
お嬢様は特に気にも留めた様子もなく、執務室を出ていった。
扉が閉まるのを見届けてから、
私は改めてアドルフ様と向き合った。
「ティアナのお見合いの件だが……どうだ?」
「候補者の方々とはお会いしましたが、
今のところ気になる方はいらっしゃらないようです」
「そうか」
アドルフ様は小さく頷いた。
「まあ、そう急いでいるわけでもない」
一拍。
鋭い視線が、真っ直ぐこちらを射抜く。
「……ユウリ。お前はどうだ」
――試されている。
執事としてか。
それとも、“男”としてか。
「私、ですか?」
「ああ」
一瞬だけ、胸の奥がかすかに疼いた。
だが、それを表に出すことは許されない。
出してはならない。
「お嬢様は、私をそのようには見ておられません」
淡々と、事実を述べる。
「また私自身も……
お嬢様に、そのような感情を抱く資格はございません」
守るべき方に、欲を抱く資格はない。
それが、私自身に課した唯一の誓いだった。
言い切った声に、揺らぎはなかった。
アドルフ様は、しばし私を見つめ――
やがて、小さく息を吐いた。
「そうか。お前をティアナの執事にしてよかった」
「……有難いお言葉です」
胸の奥で、安堵とも違う静かな熱が灯る。
「……ティアナが、
だいぶ突っ込んでいるようだな」
隠すつもりはなかった。
取り繕うことに意味はないと、最初から分かっていた。
「はい」
短く、しかし迷いのない返答。
叱責はなかった。
アドルフ様はわずかに視線を落とし、低く告げる。
「ユウリ。ティアナを頼んだぞ」
たったそれだけ。
だが、それは命令ではなく――
覚悟を託す言葉だった。
「はい。承知しております」
深々と頭を下げる。
守ると決めたのは、今に始まったことではない。
あの方が泣いた日も、
笑った日も、
剣を取ると決めた日も。
すべての傍らにいると、私は決めていた。
――その頃。
執務室の扉の外。
お嬢様は壁にもたれ、何食わぬ顔で立っていた。
「……お嬢様、盗み聞きですか?」
「全部は聞こえてないよ。ちょっとだけ」
悪びれもせず、肩をすくめる。
「お父様ってさ、ユウリには優しいよね」
「……そうでしょうか」
「そうだよ。かなり気に入ってる。
私より信頼されてるんじゃない?」
冗談めいた口調。
けれど、その奥には微かな寂しさが混じっていた。
私は、ただ微笑む。
「それでも私は――」
一歩下がり、いつもの距離で頭を下げる。
「お嬢様の執事であることを、誇りに思っております」
それ以上の言葉は、必要なかった。
想いは、口にしないからこそ守れるものもあるのだから。
