夜明けが世界を染めるころ

伯爵家に戻ったあと、私は父に報告のため執務室を訪れた。

「失礼いたします」

「入れ」

相変わらず、感情の読めない声だった。

「ただいま戻りました」

「ああ。……大変だったようだな」

どこまで知っているのだろう。
まさか、私がやらかしたことまで聞いてはいない……よね。

「ええ。少々問題はありましたが、殿下に何事もありませんでした」

「そのようだな」

父は書類から目を離さず、淡々と続ける。

「お前が連れて行った料理人――レオだったか。
あれがデボラを捕らえたそうだな。殿下も褒めておられた」

「……ありがとうございます」

「よくやった」

一瞬だけ、評価らしい言葉が落とされる。

だが、すぐにその声は冷えた。

「だが、きちんと手綱は握っておけ」

「……はい?」

「力のある犬ほど危ういものだ。
いつ主人に噛みつくか、わかったものではない」

また一言余計だな、と内心で思う。

「……肝に銘じます」

そう答え、私は一礼した。

踵を返し、部屋を出ようとした――その時。

「待て」

低い声に、足が止まる。

「ユウリだけ残れ」

背後で、空気がわずかに張りつめた。

私は一瞬振り返り、ユウリと視線を交わす。

彼はいつもの穏やかな微笑みを崩さぬまま、
小さく頷いた。

「……承知いたしました」

扉が閉まる。

その向こうで交わされるのが、
私には聞かせたくないことか。