夜明けが世界を染めるころ

一週間後
列車の白い息が、茜色の空へとゆっくり溶けていく。

私たちはホームの端に並んで立っている。

レオ、ルイ、ユウリ。
セナとテオ。

そして――旅支度を整えたトワ。

「忘れ物はありませんか?」

ユウリの問いに、

「はい、大丈夫です」

トワはきちんと背筋を伸ばして答えた。

「ほんとに学校行くだけなんだよな?」

レオが半信半疑で言う。

「はい。ちゃんと戻ってきます。
ただボランティアの件中途半端になってしまいすみません」

トワが少し名残惜しそうに話す。

「それは気にしなくていいからな!
また戻ってきた時にでも一緒にいけばいいし!」

レオがトワの頭をなでる。

「はい!」
明るい声。
変わらない笑顔。

なのに――

(……なんでだろう)

胸の奥に、ほんのわずかなざわめきが残った。

理由は分からない。
ただ、いつもより少しだけ大人びて見えた。

汽笛が鳴る。

低く長い音が、別れを急かす。

「じゃあな、トワ!」

「手紙、必ず出してくださいね」

皆が口々に声をかける中、
私は一歩、前へ出た。

「……トワ」

名前を呼ぶと、彼は小さく首を傾げた。

「はい?」

「学校、楽しいこともたくさんあると思うけど……」

言葉を探す。

心配する理由なんて、本当は何もないはずなのに。

「無理はしすぎないで。
辛くなったら、ちゃんと頼りなさい」

トワは少し驚いたように目を瞬かせ、
それから、柔らかく笑った。

「ありがとうございます。お姉様」

その笑顔を見た瞬間――
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

私は衝動のまま、彼を抱きしめていた。

「……え?」

トワの声が小さく揺れる。

「すぐ帰ってくるって分かってるのにね」

そう言いながら、私は腕に少しだけ力を込めた。

「でも……寂しいの」

それは嘘じゃなかった。

彼は一瞬戸惑い、
それからそっと、私の背に手を回した。

「……はい。必ず戻ってきます」

静かな声。

不思議なほど落ち着いた温度。

その落ち着きが、なぜか胸に引っかかった。

私はゆっくりと腕を離す。

「約束よ」

「はい。約束です」

列車の扉が閉まる。

白い蒸気の向こうで、トワが手を振った。

「行ってきます!」

「いってらっしゃい!」

皆の声が重なり、列車は動き出す。

遠ざかる姿を見つめながら、
セナが小さく息を吐いた。

「……大きくなったな」

「ほんとにね」

テオも同意する。

私だけが、胸元をそっと押さえた。

(どうして……こんなに胸が騒ぐの)

答えは、もちろん出ない。

ただの別れ。
ただの旅立ち。

そう思いながらも――
夕焼けの中に消えていく列車を、いつまでも見送っていた。