夜明けが世界を染めるころ

殿下が一瞬言葉を失い、ゆっくりと話す。

「命を軽んじている訳でないんだよ。
自分に対しては…まあ冷めているのかもね。でもだからといって諦めているのは違う」

ルビー色に揺れる瞳が、まっすぐ私を射抜く。


「私は、どうでもいいものには手を出さない。
回りくどいのは――失いたくないものほど、大切なものほど…慎重になるものだよ。
だから悩んでた。君をどこまで巻き込んでいいのか…」

……ずるい。

そんなことを、こんな顔で言うなんて。

胸の奥が、じわっと熱くなる。

「それ……本人に言わない時点で、伝わらないじゃないですか」

「だから今、言ってる」

一瞬、言葉に詰まる。

酔っているせいか、心臓の音がやけに大きい。

「……殿下って、本当に」

一歩近づいて、殿下の胸元を軽く掴む。

「人の心を揺らすの、上手すぎです」

殿下は驚いたように目を見開いてから、ゆっくりと微笑んだ。

「それは褒め言葉かな?」

「……どうでしょうね」

そう言いながらも、否定できない自分がいて、余計に腹が立つ。

(この人といると、調子が狂う……)

――そして同時に、目を逸らせなくなる。

あれ、殿下の顔がぐにゃりと歪む。ふわふわして、心が浮遊するみたい。
でも、思っていたことはちゃんと殿下に伝えた!
スッキリした!
もう何でもいいや。すごく眠い……。

もう抗えない、寝てしまおう。
そういえば、湖畔でのピクニックの予定を開けるため、連日の激務でほとんど寝ていなかったんだった。

ずるっ……なんか、柔らかいような、でも少し硬いような感触。
そして、殿下の匂いが、ふんわり漂う。

「すーっ……むにゃ……うんにゃ……」
体が勝手に沈み込む。意識がとろけていく。

「まさかの寝落ちか。君は本当、ずるいな」
殿下の声が耳に届く。少し笑っているような、驚いているような。

その声がふわふわ揺れるなか、私は微かに頷くしかなかった。