夜明けが世界を染めるころ

ふと向かいに座るセナは、背筋を伸ばしたまま外を警戒している。窓に映る横顔は、先程見せた兄の顔ではなく、いつもの専属騎士のそれだった。


「ねぇ、騎士団は宝石事件どこまで把握してるの?」

その問いにゆっくり私の方をみる。

「パン屋の奥さんの話ですが、錯乱した奥さんを取り押さえ、何とか宝石を取り上げましたが並の騎士では宝石を破壊することが出来なかったそうです。
腕の立つ騎士が破壊し王国騎士団に引き継いだとの話です」

「それで奥さんの状況は?」

「錯乱状態に陥っていましたが、宝石が破壊された後は症状が落ち着いているようです」

「……実物の宝石、見られないかな」

ぽつりと漏らすと、セナはすぐに首を横に振った。

「もう無理です」

即答だった。

「事件性が確定した時点で、証拠品は王国騎士団へ引き継がれました。破壊された欠片も、すべて」

「えー……」

思わず声が伸びる。

「危険なものだって分かってるけど、見ないと分からないこともあるのに」

「それは、騎士団も同じ判断でしょう」

セナは少し言いづらそうに続ける。

「……今回の件、王都直轄です」

——ああ。

嫌な予感が、はっきり形になる。

「ってことは」

「はい」

セナは一度だけ、視線を逸らした。

「殿下が、直接関与されています」

「……ディラン殿下ね」

自然と眉がひそむ。
あの人苦手なんだよなぁ。容姿端麗 頭脳明晰 、おまけに身体能力も高い。どこをとっても非の打ち所がない完璧な王子。
ただ軽薄で計算高く何を考えているかわからない。


「危険物の調査は、王国主導になります。あなたが関わる理由を、殿下に納得させるのは……」

「難しい?」

「……かなり」

ため息が出る。
こっちはこっちでもう少し調べみるか。
ラピスラズリの領地で好き勝手やらせはしない。