夜明けが世界を染めるころ

「私は殿下のことを、すべて知っているわけではありません」

そう前置きしてから、ティアナ様は静かに言った。

「ですが、これまで殿下が積み重ねてこられた実績と、その一貫性は知っています。
だから……もし殿下がこの国を治める立場になったとしても、きっと国は安泰でしょうね」

――やはり。

この方は、肩書きでも噂でもなく、
結果と行動を見て評価している。

殿下が、最も欲しがっていて、
そして最も得られなかった評価の仕方だ。

「その言葉、殿下が聞いたら喜びますよ」

素直な感想だった。

だが、ティアナ様は首を横に振る。

「そうでしょうか。殿下は、国王の座そのものにはあまり興味がなさそうですし……
それどころか、皮肉だと受け取るかもしれません」

その言い方があまりに自然で、私は思わず苦笑した。

――ここまで理解しているのに、
本人は“好意ではない”と思っているのだから。

「……なるほど」

私は肩をすくめる。

「嫌っている、というよりは……
殿下を“正しく見すぎている”のかもしれませんね」

「え?」

「殿下は、持ち上げられることには慣れていますが、
正面から“中身”を見られることには慣れていませんから」

それは、私自身が長年仕えてきて痛感していることだ。

ティアナ様は、少し考え込むように視線を落とした。

「……それ、殿下に言ったら怒られませんか?」

「ええ。たぶん、少し」

そう答えると、彼女は小さく笑った。

ちょうどそのとき、目的の部屋に到着する。

「こちらです」

扉の前で足を止める。

「ありがとうございました、レイさん」

丁寧に頭を下げる。

彼女が部屋に入るのをみて私は心の中で思った。

――殿下。

あなたが執着する理由は、
“好かれていないから”ではありません。

“見抜かれているから”です。

そしてそれは、
あなたにとって、何よりも抗えないことだ。