夜明けが世界を染めるころ

「いえ、そういう訳では……何と言いますか」

頬をかきながら、困ったように苦笑いを浮かべるティアナ様。
少し踏み込みすぎただろうか、と一瞬思う。

「こちらこそ、失礼な質問でしたね」

「違うんです」

すぐに首を振る。

「殿下が嫌い、というわけではなくて……本心が見えにくい方なので。
こちらも、どう接していいのか戸惑ってしまうというか……」

曖昧に笑うその表情は、取り繕っているというよりも、正直すぎるほどだった。

――確かに。

殿下は本心を隠すのが、あまりにも上手い。
王族として生まれ育てば、それも当然なのだが。

「そうですね」

私は小さく息を吐く。

「長年お仕えしていますが、私自身も殿下の本心がわからないことはよくあります」

それは、側近としては致命的とも言える弱点だ。
だが、同時に――それほどまでに殿下は“殿下”という仮面を完璧に被っている。

「……やっぱり、そうなんですね」

ティアナ様は、少しだけ安堵したように目を伏せた。

そして、言葉を探すように視線を宙に彷徨わせる。

「私は……殿下を、尊敬……ではないし……」

一瞬、間が空く。

「信頼?……いや、それも違う気がして……」

珍しい光景だった。

殿下を評する言葉に、ここまで悩む人間を、私は初めて見た。
ほとんどの者は、淀みなく言う。

――美しい。
――聡明だ。
――完璧だ。

だが、それらはどれも借り物の言葉で、殿下の心には届いていない。