夜明けが世界を染めるころ

レイ side

そろそろ、ティアナ様の支度は整った頃だろう。
私は客室の前で足を止め、ノックをする。

「失礼いたします。お着替えはお済みでしょうか?」

「どうぞ」

中から、透き通った綺麗な声が返ってくる。
扉を開けると、そこにはラベンダー色のドレスに身を包んだティアナ様の姿があった。

――なるほど。

殿下の機嫌が良い理由も、頷ける。

「とてもよくお似合いですね」

自然と口元が緩み、私は微笑んだ。

「何から何まで、ありがとうございます」

そう言って、丁寧に頭を下げる。
立ち居振る舞いの一つひとつが洗練されていて、やはり育ちの良さが滲み出ている。

「いえ。殿下のご機嫌が非常に良いので、こちらこそお礼を言いたいくらいです」

「は、はあ……」

少し戸惑ったような、曖昧な返事。
ご本人は気づいていないが、殿下は彼女に対しては随分わかりやすい。

「お食事の準備が整ったようです。ご案内いたします」

「よろしくお願いいたします」

「ユウリ様 ルイ様 トワ様 のお部屋にもお声がけしてから参りましょう」

そう告げて、私は一歩先を歩き出す。


なんだろう。
背中というより、全身を舐めるように見られている気がする。

殿下の側近という立場柄、人の視線には人一倍敏感だ。
だからこそ、余計に気になってしまう。

「あの……あまり見られると、穴が開きそうです」

後ろを振り返り、苦笑いを浮かべる。

「失礼しました。あまりにも素敵な大臀筋でしたので」

「ぐふっ」

思わず変な声が漏れ、笑ってしまった。
まさか、そんな直球で来るとは思わなかった。

「レイさんは、殿下とはお付き合いが長いのですか?」

「ええ。幼少期より、お側で支えております」

「そうでしたか……」

少しだけ、納得したように頷くティアナ様。

歩きながら、私は横顔を盗み見る。
派手な反応はしないが、殿下の話題になると一瞬だけ表情が曇る。
他の令嬢たちとは、明らかに違う。

だからこそ――気になった。

「……殿下のことは、お嫌いですか?」

少し踏み込んだ質問だ。
だが、側近として確認しておく必要がある。

殿下に声をかけられただけで歓声を上げ、頬を染める令嬢は数え切れないほどいる。
それなのに、ティアナ様はどこか距離を取り、時に露骨に嫌そうな顔すらする。

物珍しさもある。
そしてもう一つ――殿下に対する敵意がないか。