夜明けが世界を染めるころ

「そう思うかい? 

でも少し気になることがあってね。こうしてやって来たわけだ。
それは――君も同じだろう?」

意味深な笑顔。
殿下は、どこまで知っているのだろうか。
胸の奥が、わずかにざわつく。

「さて、急ごうか。また雨が強くなりそうだ」

遠くで、ゴロゴロと雨雲の唸る音が聞こえる。

「よくおいでくださいました。こちらへ」

案内され、個室へ通される。
そこには、修道服に身を包んだニーナが一人、静かに座っていた。

……あの頃の、華やかで高慢な令嬢の面影は薄い。
だが、その瞳の奥の光だけは、変わっていないように見えた。

「やあ、久しぶりだね」

殿下が向かいの席に腰を下ろす。
すぐ後ろには、オーウェン団長が控える。
逃げ場のない配置だ。

「ディラン殿下……」

ニーナは小さく息を呑み、深く頭を下げた。

「今日は君に聞きたいことがあって来たんだ。
私に盛ろうとしていた薬は、誰から買ったんだい?」

淡々とした声。
感情は一切乗っていない。

「あ、あの……」

ニーナは指先を強く握りしめる。

「私、本当に殿下を殺そうとしたわけではないのです」

「……ほう?」

「私は、殿下のことを――愛していますの」

その言葉に、空気が一気に張り詰める。
雨音が、まるで強調するかのように窓を叩く。

殿下は、驚いた様子も見せず、ただ静かにニーナを見つめた。

「それで?」

「ただ殿下にも、私を愛して欲しかったのです…」

その声は震えているが、どこか陶酔している。

――愛。
その言葉を、こんな形で使う人もいるのだと、背中に冷たいものが走る。

「では、質問を変えようか」

殿下は穏やかに、しかし逃げ道を塞ぐ声で言った。

「その“毒薬″誰から手に入れた?」

ニーナの視線が、わずかに揺れる。
それを、殿下は見逃さなかった。

「……答えなさい、ニーナ。
君のためでもある」

部屋の中で、雨音だけが響く。
ニーナは、唇を噛みしめ――やがて、ゆっくりと口を開いた。