夜明けが世界を染めるころ


「うん。頑張ったよ。ナタリーさんに立派になったところを見せたくて。
でも、中々会いに来られなくてごめんね」

会っていなかった数年で、ナタリーさんの物忘れはだいぶ進んでしまったようだ。

「そうかい。えらいねー。おや、その後ろの2人は誰だい?」

「私もナタリーさんにお世話になったユウリです。
そちらの2人は、ディラン・アレキサンドライト殿下と、その側近のレイ様です」

「大人数ですまないね、レディ」

殿下が自然に跪き、ナタリーさんの手を優しく取る。
「おやおや、照れちゃうね」

少し微笑むナタリーさんの顔を見て、さすが殿下だなと感心する。

「ナタリーさん、実は聞きたいことがあって、ここに来たんです」

「おやぁ、なんだろうねー。今日のお昼ご飯かな?」

思わず微笑んでしまう。物忘れが進んでも、その仕草は昔と変わらない。

「ナタリーさんは、アイリスという方を知っていますか?」

私の世話係をしてくれていたナタリーさんなら
何か知っているかも―そう願いながら、期待と少しの緊張を胸に込めて訊ねる。


「知らないねー。誰だい?そのアイリスさんは。何かあったのかい?」

「もう随分前に亡くなっているんですが、何かご存知かと思って…」

「悪いねー、なんにもわからないよ。でもどうして知りたいんだい?」

「最近になってその方が私にとって、とても大切な人だったと知ったんです。だから知りたいと思ったんです」

「そうかい。難しいねー」

「そうですよね。ありがとうございました」

やはり、収穫はなしか…。
まあ、難しいとは思っていたけれど。
でも、ナタリーさんに会えてよかった。


その時、ナタリーさんがふっと笑い、私をじっと見つめる。

「そうだ、お嬢さんにお願いがあるの」

「何でしょう?」

ナタリーさんの顔には、ほんの少し子どものような期待といたずらっぽさが混じっている。
――ナタリーさんからのお願い事って、一体どんなことなのだろう。