夜明けが世界を染めるころ

「うちの使用人が失礼しました」

ユウリがすっと頭を下げる。

「気にしなくていい。おや、君は?」

「トワといいます。2年ほど前から伯爵家の養子としてお世話になっております。
よろしくお願いいたします」

トワは落ち着いた所作で丁寧に挨拶をする。

「初めまして。
賢そうな子だね」

ディラン殿下はトワと目線を合わせ、にこりと笑った。
そして次に視線をルイに移す。

「君はブティック・グロウのルイだね。
噂は以前から聞いている。良いドレスを作ると聞いたよ。
今度、私のもお願いしようかな」

「ええ、喜んで」

ルイも丁寧にお辞儀し、その優雅な所作に殿下も微笑む。

「そういえば、銀髪の彼――セナはいないのかい?」

ディラン殿下からセナの名前が出てくるとは思わず少し驚く。

「ええ、今日は任務に出ております」

「そうか。護衛をつけないとは、少し不用心だよ、ティアナ嬢」

「その心配は無用です」

私は少し冷たく答える。
殿下には関係のないことだと思い、毅然とした態度を崩さない。

「――あの、殿下もお昼どうですか?」

そんな中、レオが何かとんでもない提案を口にした。

「ちょ、レオ。それは――」

「いいのかい? それではお邪魔させてもらおうかな」

気づけば、ピクニックシートにディラン殿下も座っている。
――なんだこの状況は。
穏やかで楽しいひと時だったのに、突然の非日常感が入り混じる。

「いただきます」

ディラン殿下は、綺麗な所作でカモのハニーローストのサンドイッチを口に運ぶ。
その優雅さに、思わず目を奪われる。


「うん、とても美味しいね。これを君が作ったの?」

「はい、レオって呼んでください」

「レオは料理人なのかい?」

「はい、お嬢さんの専属料理人です」

レオの緩い喋り方は本当は正さなくてはいけないが、ディラン殿下は気にしていない様子。
――まあ、これでいいか。

「それは羨ましいな。レオのフルコースが食べてみたいね」

「機会があれば!」

「サラッと私の料理人を勧誘しないでもらっていいですかね」

「すまない、そんなつもりではないのだが」

殿下は愉快そうに笑う。
その笑顔に、つい少し警戒心がゆるむ。

「ところで、こちらには何をしにいらしたのですか?」

さっき聞きそびれたことを、改めて尋ねる。

「そうそう、こちらには仕事の関係でね。
ついでに、数カ月前のパーティーの“主犯格”から話を聞こうと思ってね」

ディラン殿下の言葉に、空気が少し引き締まる。
そう、あの暗殺未遂事件――
デホラ男爵とニーナ令嬢は罪に問われ、財産を取り上げられ、今は辺境の地で過ごしているという話を思い出す。