夜明けが世界を染めるころ

「うーん……」

思わず唸ると、向かいに立っていたユウリが小さくため息をついた。

「お嬢様。お顔が潰れておりますよ」

「いや、だってさ。これ、見てよ」

私は机の上に、溜まりに溜まった手紙をばさばさと広げた。
封蝋の色も、家紋も、見事なほどにばらばらだ。

「おや、お見合い相手の方々ですね。
随分とおモテになります」

「そういう問題じゃない!」

思わず声が大きくなる。

「みんな安っぽい愛の言葉ばっかり。
私のことなんて、何一つ知りもしないのにさ。
“運命を感じました”って、会ったこともないでしょうが!」

ユウリは手紙を一枚手に取り、さっと目を通す。

「……確かに、文面はどれも似たり寄ったりですね」

「でしょ?
しかも、この公爵家のリチャード!」

私は一番端に積まれていた封筒を指差した。

「見た?
何枚も送ってくるの!
やんわり断ってるのに、全然引かないんだよ」

「立場的に、こちらの方が下ですからね」

「そうなの。だから余計に断りづらい」

胸の奥に、嫌な感触が残る。
押しの強さが、善意とは思えなかった。

「正直に申し上げますと」

ユウリは、静かに言った。

「リチャード様は、お勧めしません」

「……悪い噂?」

「ええ。女性関係と、金銭絡みで、少々」


やはりそうなのか、という確信。

「害は、まだないようですが」

ユウリは手紙を元の位置に戻す。

「しばらくは、様子を見ましょう」

「うん……」

そう答えながらも、心は別のところにあった。

「それにしても」

ふと、思い出したように言う。

「最近、宝石絡みの事件、落ち着いてるよね」

以前のように、
身近で魔宝石の暴走したという
話を聞かなくなった。

「殿下が、上手くやっておられるのでしょう」

ユウリは即答した。

「あの方は、仕事ができますから」

「だよね」

私は苦笑する。

「王国騎士団に引き継がれたのも大きいけど、
采配が的確なんだよなぁ……」

一瞬、頭にディラン殿下の顔が浮かび、
すぐに打ち消す。

――今は、考えない。

その時だった。

コンコン。

控えめなノックの音。

「お嬢様、お支度しますよ!」

扉が開き、明るい声とともにアリスが顔を出す。

「今日は、トワ様とレオとお出かけの日ですよね?」

アリスが顔を覗かせ、にこりと微笑む。

その一言に、私は手を止めた。

「……そうだね」

短く答えながら、胸の奥で、記憶がゆっくりとほどけていく。