夜明けが世界を染めるころ

コンコン。

控えめなノックの音が、夜の静けさに溶け込む。
こんな時間に訪ねてくるのは、一人しかいない。

「……どうぞ」

扉が開き、ユウリが入ってくる。
手には、湯気の立つカップ。

「お嬢様、紅茶を」

「ありがとう」

カップを受け取ると、指先に温もりが残った。

「こんな遅くまで、起きていらっしゃったのですね」

「うん……」

一口、紅茶を飲む。
ほっとするはずなのに、胸の奥は静かに張りつめたままだ。

「私、決めた」

その一言で、ユウリの空気が変わる。

「……はい」

促すように、静かな声。

「誰を、どこまで連れて行くか」

「そうですか」

驚きはない。
まるで、この瞬間を待っていたかのようだ。

私は、ユウリを見上げる。

「ユウリ……一緒に来てくれる?」

ほんの一瞬、間があって。
次の瞬間、ユウリはにこりと――満足そうに笑った。

「当たり前です」

そう言って、胸に手を当てる。

「私は、あなたの執事です」

そして、静かに、しかし揺るぎなく続けた。

「あなたが望むその時まで――
いえ、望まなくなるその時が来たとしても」

ユウリの瞳は、まっすぐだった。

「私は、あなたの傍におります」

胸の奥で、何かがほどける。

――一人じゃない。

その事実が、こんなにも心強いなんて。

「ありがとう、ユウリ」

「いえ」

ユウリは軽く頭を下げる。

「覚悟を決められたのは、お嬢様ご自身です。
私は、それを支えるだけ」

ランプの灯が、2人の影を壁に映す。
主と執事。