その後も、私は諦めなかった。
「散歩しよう」
「川に行こう」
「花を見に行こう」
「クッキー、焼いたの。一緒に食べない?」
思いつくままに声をかけ続けた。
あまりのしつこさに、ついにトワは観念したように小さく息を吐く。
「……わかりましたから」
呆れと諦めが混じったその声に、私は思わず笑ってしまった。
それから私は、次々と周囲を巻き込んでいった。
レオには一緒にお弁当を作ってもらい、庭で並んで食べた。
ルイにはトワのためにオーダメイドの服を仕立ててもらい、
ユウリには基礎学問や礼儀作法を教えてもらった。
アリスにはトワの身の回りのお世話も手伝ってもらった。
セナには剣の持ち方を――まだ子ども用の木剣で――教えてもらい、
その少し離れた場所では、テオが気まぐれのように、その様子を眺めていた。
私は、皆を巻き込みながら、
トワを少しずつ“外の世界”へ連れ出していった。
最初は無表情で、必要最低限の言葉しか発さなかった彼も、
次第に逃げなくなり、
黙ったままでも、私の隣を歩くようになった。
それだけで――
十分すぎる変化だった。
穏やかな日々が続く中で、事件は起きた。
トワが、他の貴族の子どものブローチを盗んだ――
そんな疑いをかけられたのだ。
ざわつく声の中で、私はすぐに気づいた。
トワの少し後ろで、
口元を歪め、ほくそ笑んでいる子どもがいる。
――ああ、そういうことか。
年齢のわりに落ち着きすぎている態度。
大人びた物言い。
感情を表に出さないその様子が、気に入らなかったのだろう。
ただの嫉妬と、幼い悪意。
けれど、当のトワは――
疑いの視線を向けられても、声を荒げることもなく、
弁解すらせず、ただ静かに立っていた。
怯えも、怒りも、悔しさもない。
まるで、自分に向けられた非難が
最初から“関係のない出来事”であるかのように。
その姿を見て、胸の奥がひどく痛んだ。
傷ついていないのではない。
――傷つくという感情そのものを、まだ知らないのだと。
「散歩しよう」
「川に行こう」
「花を見に行こう」
「クッキー、焼いたの。一緒に食べない?」
思いつくままに声をかけ続けた。
あまりのしつこさに、ついにトワは観念したように小さく息を吐く。
「……わかりましたから」
呆れと諦めが混じったその声に、私は思わず笑ってしまった。
それから私は、次々と周囲を巻き込んでいった。
レオには一緒にお弁当を作ってもらい、庭で並んで食べた。
ルイにはトワのためにオーダメイドの服を仕立ててもらい、
ユウリには基礎学問や礼儀作法を教えてもらった。
アリスにはトワの身の回りのお世話も手伝ってもらった。
セナには剣の持ち方を――まだ子ども用の木剣で――教えてもらい、
その少し離れた場所では、テオが気まぐれのように、その様子を眺めていた。
私は、皆を巻き込みながら、
トワを少しずつ“外の世界”へ連れ出していった。
最初は無表情で、必要最低限の言葉しか発さなかった彼も、
次第に逃げなくなり、
黙ったままでも、私の隣を歩くようになった。
それだけで――
十分すぎる変化だった。
穏やかな日々が続く中で、事件は起きた。
トワが、他の貴族の子どものブローチを盗んだ――
そんな疑いをかけられたのだ。
ざわつく声の中で、私はすぐに気づいた。
トワの少し後ろで、
口元を歪め、ほくそ笑んでいる子どもがいる。
――ああ、そういうことか。
年齢のわりに落ち着きすぎている態度。
大人びた物言い。
感情を表に出さないその様子が、気に入らなかったのだろう。
ただの嫉妬と、幼い悪意。
けれど、当のトワは――
疑いの視線を向けられても、声を荒げることもなく、
弁解すらせず、ただ静かに立っていた。
怯えも、怒りも、悔しさもない。
まるで、自分に向けられた非難が
最初から“関係のない出来事”であるかのように。
その姿を見て、胸の奥がひどく痛んだ。
傷ついていないのではない。
――傷つくという感情そのものを、まだ知らないのだと。
