夜明けが世界を染めるころ

テオとの一件が落ち着いた、夕暮れの図書館。

高い窓から差し込む橙色の光が、本棚の影を長く床に落としている。
静まり返った空間に、紙をめくる音だけが微かに響いていた。

――あ、あそこにいるのは。

「トワ」

声をかけると、机に向かっていた少年が顔を上げる。

「あ、お姉様」

柔らかく、少し照れたように微笑む。

「勉強熱心ね」

「いえ。レオと相談して、孤児院のボランティアを今後も続けられるように、できることをまとめているんです。書類にしようと思って」

「さすがね。レオからも聞いたわ」

机の上には、丁寧に書き込まれた紙が何枚も並んでいる。

「できたら、見せてね」

「はい」

素直な返事に、自然と頬が緩む。

「それと……ボランティアの手伝い、ありがとう」

「いえ……」

少しだけ視線を泳がせてから、トワは小さく息を吸った。

「色々ありましたね…」

そう前置きし、こちらを見上げるトワに声をかける。

「トワは、大丈夫だった?」

「はい。僕は大丈夫です」

けれどすぐ、今度は心配そうに眉を下げた。

「それより……お姉様は、大丈夫ですか?」

揺れる瞳には、年齢以上の思慮深さが滲んでいた。

「平気よ」

そう答えると、彼はほっとしたように肩の力を抜いた。

「……よかった」

私は椅子を引き、彼の隣を示す。

「ねえ。私も隣で仕事しててもいい?」

一瞬きょとんとしたあと――

「はい!」

ぱっと表情が明るくなる。

夕暮れ色の光の中、並んで机に向かう二人。

羽ペンの擦れる音と、紙をめくる小さな気配が、静かな図書館に溶けていった。

昼の喧騒も、不安も、争いも。
今はすべて、遠くにあるような――穏やかな時間だった。