「そうだ、ちゃんとお礼を言えてなかったけど……
孤児院のボランティア、本当にありがとう」
レオのおかげで、あの日は大成功だった。
「いえ! 俺もすごく楽しかったです!
色々ありましたけどね。トワがすごく協力してくれて!」
「そうね。トワも、ずいぶん馴染んでいたわ」
子どもたちに囲まれながら、
ぎこちなくパン生地をこねていた姿を思い出す。
「俺、実はお嬢さんに相談があったんです!」
レオは少し照れたように頭をかきながら言った。
「まだ書面にはまとめてないんですけど、
せっかく設備も整いましたし、孤児院の子どもたちに
料理を教えていけたらって思ってて。
トワとも相談してるところなんです」
「素敵な案ね」
思わず、声がやわらぐ。
「その時は支援金も少し用意できると思うわ。
書面にまとめられたら、見せてちょうだい」
「はい! よろしくお願いします!」
「――よし、これで完成ね」
「完璧です!!」
サンドイッチが焼き上がり、
香ばしい匂いが厨房に満ちる。
カゴバッグに丁寧に詰め、
水筒には飲み物も用意してもらった。
「レオ、ありがとう」
「いえいえ!
テオが元気になるといいですね」
ぶんぶんと大きく手を振るレオを見送り、
私は城を後にした。
城門を抜け、訓練場の脇を通り、騎士寮へ向かう。
ここには、第1・第2・第3騎士団の寮が並んでいる。
第1騎士団の建物は少し離れた場所にあり、造りも豪華だ。
もっとも、既婚者が多く、寮ではなく近隣に家を借りて暮らす者も多い。
その分、手当も手厚い。
若手中心の第2・第3騎士団は、ほとんどが独身で寮生活。
第2騎士団の寮は貴族出身者が多く、
副団長家からの寄付もあって、第1ほどではないが整っている。
それに比べて――第3騎士団の寮は年季が入っていた。
壁の色もくすみ、ところどころ補修の跡が残る。
少し、荒れた印象は否めない。
以前、父に建て替えの相談をしたこともあった。
雨漏りなど最低限の補強は進められたが、
全面改修までは難しい、という返答だった。
……いつか、ちゃんと直したい。
そんなことを考えながら歩いていると、目的の場所に着く。
――テオの部屋。
扉だけが妙に新しく、すぐにわかった。
私はカゴを持ち直し、そっと声をかける。
「テオ……いる?
少し、話したいのだけれど」
返事はない。
けれど扉に近づき、耳を澄ませると、
微かな気配が確かに伝わってくる。
……中にいる。
間違いない。
私は一度、小さく息を吸った。
