夜明けが世界を染めるころ

テオside

まだ、あれから3年しか経っていない。
この先もずっと、お嬢様と一緒にいられると思っていたのに。
ところが、耳に入ってきたのは――お嬢様がお見合いをしている、という話だった。

木に登って確かめに行くと、そこには第2騎士団団長とお嬢様の姿があった。
いつもとは違う、華やかなドレスに化粧。
俺の知らない、別の顔。

住む世界が違うことはわかっている。
それでも、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
もしお嬢様が結婚して、どこか遠くに行ってしまったら――どうすればいいのだろう。

俺は、捨てられるのか。
いやだ――。

お嬢様のそばにいられないのなら、俺は騎士になった意味がないじゃないか。

「テオ。おい、テオ」

何度も呼ばれているのに気づかず、肩を掴まれる。

「あ、セナ副団長……。なんですか」

「『なんですか』じゃないだろう。テオ、お前ちゃんと食事とって、休んでないだろう。」


「そんなことないですよ。……あ、そうだ。セナ副団長。俺と手合わせしてください」

セナ副団長よりも強いと証明できれば、
お嬢様は、俺をそばに置いてくれるかもしれない。
――捨てられずに、済むかもしれない。

「いいけど」


「どうせなら、今日は魔宝剣でやりましょうよ」

その瞬間、こちらを見るセナ副団長の目が、はっきりと鋭くなった。

一拍の沈黙。
断られるかもしれない――そう思ったが、彼は小さく息を吐き、

「……わかった。
ただし、出力は3割以下」

短く、しかし重い条件だった。

俺は頷き、腰の魔宝剣に手をかける。

抜き放たれた刃の根元で、
赤いスピネルが微かに脈打った。

信念と再生、揺るがぬ意志に応える魔宝石。
熱を帯びるような感覚を、必死に押さえ込む。

対するセナ副団長の剣には、
澄んだ蒼のアクアマリンが埋め込まれていた。

静謐と理性、冷静な判断を司る石。
その輝きは、持ち主と同じく一切の隙を見せない。

俺たちは互いに剣を構える。

この人は、昔からずるい。
お嬢様との付き合いも長く、今も専属の護衛騎士を任されている。

ずるい。
ずるい。
ずるい――。

一瞬、殺したい、なんて考えが頭をよぎる。

……でも、そんなことをしたら、お嬢様が悲しむ。
それだけは、絶対にできない。

次の瞬間。

魔宝剣同士がぶつかり合い、
カキン――と、高く澄んだ金属音が訓練場に響いた。

――ああ、これだ。

普段の木剣では決して鳴らない、
命を削る覚悟を孕んだ、金属同士の乾いた音。

さすが、セナ副団長。
俺の剣を、余裕をもって捌いていく。