夜明けが世界を染めるころ

ラルクル商会を後にし、馬車に乗り込むとセナがふと私を見た。

「お嬢様さすがですね」

「そう?」
軽く答える。

セナは真剣な目で言った。

「頑固な職人達を納得させたんです。すごいことです」

「そんなことないよ。でも目指す先は一緒だったから…うまく話がまとまって良かったけどね」

肩をすくめて笑う。
もし彼らが、市民向けのジュエリーに品質を落とした素材や偽物を使い、利益だけを優先するような販売をするつもりなら——その時点で助言は撤回していたし、販売の停止すら考えていた。

「素敵なものを作って、きちんと販売できるといいですね。そうなったら、俺も購入したいです」

専属騎士であるセナの給料は決して低くない。けれど、家族に仕送りをしているらしく、今日見たような価格帯の品を気軽に買うのは難しいだろう。

「そうだね。素敵な恋人に贈ってあげて」

そう言って、私は口元をゆるめてにやりと笑う。

「……そんな人はいません」

セナは感情の読めない無表情に戻った。

「知ってるよ〜。モテモテで、ファンクラブまであるってこと。私には隠さなくてもいいのにさ」

ラピスラズリ伯爵家 第三騎士団 副団長 そして私の専属騎士。剣の腕は一流で、整った顔立ち。どう考えても恋人に困るはずがない。

「別に隠していません。それに……昔から、贈る相手は変わらない」

珍しく、真剣な声音だった。その言葉に思わず目を見ひらく。

「え!? そうなの?」

問い返した瞬間、

「着きましたよ。昼食会に行きましょう」

話を打ち切るように、セナは颯爽と馬車を降りていく。外気が流れ込み、現実に引き戻された。

——教えてくれないのね。
まあ、別にいいけど。