気づけば、
俺は銀髪の男――セナと呼ばれる人に抱えられ、
大きな屋敷に連れてこられていた。
広い。
静かで、清潔で、
俺が今までいた世界とは、何もかもが違う。
「よし、まずはお風呂ね」
彼女が迷いなく言う。
「ユウリお願い」
「かしこまりました」
そう答えたのは、茶髪の男だった。
ユウリと呼ばれた彼は、にこやかに――だが有無を言わせない力で、
俺の腕を掴む。
「さ、行きましょう」
……引きずられてる気がする。
抵抗する間もなく浴室へ放り込まれ、
湯気と石鹸の匂いに包まれた。
「ちょ、ちょっと……!」
「大丈夫ですよ」
ユウリは手際よく、
長い間こびりついていた汚れを、丁寧に洗い流していく。
湯は、熱すぎず、ぬるすぎず、
皮膚の奥まで染み込んでくるみたいだった。
(……あったかい)
頭から、足先まで、
全部が軽くなっていく。
風呂を出ると、
清潔な服を渡された。
柔らかくて、軽くて、
今まで着ていたものとは、別の世界の布だ。
「似合ってますね」
ユウリが笑う。
……なんか、いい匂いがする。
そのあとすぐ、医者のところへ連れて行かれた。
白衣の男は、俺の身体を一通り診てから言った。
「だいぶ痩せてるね。でも、他に悪いところはなさそうだ」
軽い口調だが、目は真剣だ。
「急に詰め込むのは逆効果だ。
少しずつ栄養をとって、まずは1週間、しっかり休もう」
その「休む」という言葉が、
やけに遠いものに聞こえた。
……一週間、何もしなくていい?
結局、その通りになった。
用意された部屋で、
決まった時間に食事が運ばれ、
無理に動くことも、命じられることもない。
落ち着かなくて、何度も起き上がろうとしたけど、
そのたびに誰かが言った。
「今は、それでいい」
それから――
セナが、剣を教えるようになった。
「構えはこうだ」
無駄のない動き。
余計な言葉は少ない。
「お嬢様の前では、剣を振るな。
守るための剣だと、忘れるな」
それともう一つ、
はっきり言われた。
「ティアナ様のことは、“お嬢様”と呼べ」
……少し、くすぐったい。
剣だけじゃない。
お嬢様は、時間を見つけては、
文字の書き方を教えてくれた。
「これは、“あ”」
紙に描かれる線を、真似る。
思ったより、難しい。
食事の仕方も、
礼儀も、
全部、少しずつ。
「急がなくていいのよ」
そう言って、
できると小さく拍手してくれる。
(……不思議だ)
罰も、怒号もない。
できないことを、責められもしない。
代わりにあるのは、
「教える」という時間だった。
俺はまだ、ちゃんとした人間じゃない。
でも――
この屋敷で、
この人たちの中でなら、
少しずつ、
なれる気がしていた。
俺は銀髪の男――セナと呼ばれる人に抱えられ、
大きな屋敷に連れてこられていた。
広い。
静かで、清潔で、
俺が今までいた世界とは、何もかもが違う。
「よし、まずはお風呂ね」
彼女が迷いなく言う。
「ユウリお願い」
「かしこまりました」
そう答えたのは、茶髪の男だった。
ユウリと呼ばれた彼は、にこやかに――だが有無を言わせない力で、
俺の腕を掴む。
「さ、行きましょう」
……引きずられてる気がする。
抵抗する間もなく浴室へ放り込まれ、
湯気と石鹸の匂いに包まれた。
「ちょ、ちょっと……!」
「大丈夫ですよ」
ユウリは手際よく、
長い間こびりついていた汚れを、丁寧に洗い流していく。
湯は、熱すぎず、ぬるすぎず、
皮膚の奥まで染み込んでくるみたいだった。
(……あったかい)
頭から、足先まで、
全部が軽くなっていく。
風呂を出ると、
清潔な服を渡された。
柔らかくて、軽くて、
今まで着ていたものとは、別の世界の布だ。
「似合ってますね」
ユウリが笑う。
……なんか、いい匂いがする。
そのあとすぐ、医者のところへ連れて行かれた。
白衣の男は、俺の身体を一通り診てから言った。
「だいぶ痩せてるね。でも、他に悪いところはなさそうだ」
軽い口調だが、目は真剣だ。
「急に詰め込むのは逆効果だ。
少しずつ栄養をとって、まずは1週間、しっかり休もう」
その「休む」という言葉が、
やけに遠いものに聞こえた。
……一週間、何もしなくていい?
結局、その通りになった。
用意された部屋で、
決まった時間に食事が運ばれ、
無理に動くことも、命じられることもない。
落ち着かなくて、何度も起き上がろうとしたけど、
そのたびに誰かが言った。
「今は、それでいい」
それから――
セナが、剣を教えるようになった。
「構えはこうだ」
無駄のない動き。
余計な言葉は少ない。
「お嬢様の前では、剣を振るな。
守るための剣だと、忘れるな」
それともう一つ、
はっきり言われた。
「ティアナ様のことは、“お嬢様”と呼べ」
……少し、くすぐったい。
剣だけじゃない。
お嬢様は、時間を見つけては、
文字の書き方を教えてくれた。
「これは、“あ”」
紙に描かれる線を、真似る。
思ったより、難しい。
食事の仕方も、
礼儀も、
全部、少しずつ。
「急がなくていいのよ」
そう言って、
できると小さく拍手してくれる。
(……不思議だ)
罰も、怒号もない。
できないことを、責められもしない。
代わりにあるのは、
「教える」という時間だった。
俺はまだ、ちゃんとした人間じゃない。
でも――
この屋敷で、
この人たちの中でなら、
少しずつ、
なれる気がしていた。
