夜明けが世界を染めるころ

ぽろり、ぽろりと、
頬を伝って、あったかいものが落ちていく。

……なに、これ。

視界が滲んで、
胸の奥がぎゅっと縮まる。

「な、なに!? ど、どうしたの!?
やっぱり名前、嫌だった?!」

目の前の彼女が、明らかに慌て出す。
さっきまであんなに堂々としてたのに、今は完全に取り乱している。

「ち、違う……」

声が、うまく出ない。

「……誰かに、必要だって言われたこと……ない」

言葉にした瞬間、
堰が切れたみたいに、涙が溢れた。

目元をぐっと拭う。
でも、全然止まらない。

……おかしい。
涙なんて、とっくに枯れてると思ってたのに。

「……そっか」

彼女は一瞬だけきょとんとして、
次の瞬間、ぱっと笑い手を広げる。


え?

そう思った時には、
ぎゅっと、抱きしめられていた。

細い腕。
でも、驚くほどしっかりした抱擁。

彼女の肩に顔があたる。
柔らかくて、あったかい。

……なに、これ。

こんなぬくもり、
今まで一度も知らなかった。

「大丈夫だよ」

彼女の声は、近くて、優しい。

「これからね、私がたくさん
“あなたが必要”って言ってあげる」

背中に、ゆっくりと手が回る。
ぽん、ぽん、と、子供をあやすみたいに。

「でもね」

少しだけ、声が引き締まる。

「ちゃんと、あなたも一生懸命頑張らないとだめだからね?」

涙越しに、思わず息を詰める。

「私、ちゃんとやらない人には厳しいから。
そこは覚悟してね」

……厳しい。

なのに。

背中を撫でるその手は、
どこまでも優しかった。

あったかい。
拒絶じゃない。
条件付きでもない。

「……うん」

小さく、そう答える。

期待に、応えられるだろうか。
裏切ってしまわないだろうか。

不安は、まだ消えない。

でも――

このぬくもりを、
もう失いたくない。

そう思った瞬間、
胸の奥で、はっきりと決まった。

(……守ろう)

この人を。
この温度を。

それが、
俺が“騎士になる”という意味だった。