夜明けが世界を染めるころ

休憩になり、レオさんという方からいただいた差し入れを配り終えると、先輩方と集まってひと息つく。

「あの、随分ハイレベルな手合わせでしたね」

「そうだな。いつもあんな感じだけどな」

「怪我とかしないんですか?お嬢様なのに大丈夫なんですか?」
いくら強いとはいえ、あのスピードと剣捌きで怪我をしないのか心配になる。
ラピスラズリ伯爵家のお嬢様に怪我でもさせたら、大変なことになるだろう。

「それはセナ副団長が上手いんだよ。相手をよく見て、どの程度の力でやればいいか絶妙に調整してるんだ」

「だけどお嬢様も負けてないよな!さっきの顎先を躊躇なく攻めたとき、俺は『いけるー!』って思ったもん」

「わかる!わかる!惜しかったよな」

「お嬢様がすごいのは、怪我させないようちゃんと攻撃を寸止めできるところだよな」

「だけどセナ副団長は圧倒的だよなー」

「いやあ、どっちも末恐ろしいよ」

ロベルト先輩が唸ると、他の団員たちも頷き、皆その技量に感嘆していた。


「俺、まだ新人でよくわかってないですけど、誰が一番強いですか?それとティアナお嬢様って、俺より強いですよね」

先ほどの手合わせを思い出し、正直落ち込む。
護るべき人物が自分より強いとは、何とも言えない複雑な気持ちだ。

「あーそれね。お前がお嬢様とやりあったら100%負けるな」

「アレンは素早いけど、太刀筋がわかりやすいからな!」

グサッと刺さる言葉だ。自分でも分かっているけれど、先輩に指摘されるとさらに悔しい。


「……まあ、そうだな。
せっかくだし、騎士団のことを少し勉強しておこうか」

そう言うとロベルト先輩は、足元に落ちていた木の枝を拾い上げ、地面に線を引き始めた。

さらさらと描かれていくのは、三段に分かれた三角形――まるで小さなピラミッドのようだ。

「まずな、騎士になるには王国騎士団の登用試験に合格する必要がある」

「合格後は成績と本人の希望をもとに、各領地や騎士団へ配属される仕組みだ」

次に、三角形の中央へ線を引く。

「で、俺たちはラピスラズリ騎士団所属。
その中でも、さらに第1・第2・第3の3部隊に分かれてる」

「第1騎士団は、経験を積んだ実力者ばかりの精鋭部隊。
ラピスラズリ家当主直々の命を受けて動くことも多い」

枝先が、頂点をなぞる。

「第2騎士団は若手中心だが、貴族出身者が多いエリート集団だな」

視線が、自然と中央へ移る。

「そして俺たち第3騎士団は、平民や市民出身が中心だ」

一番下を軽く叩き、ロベルト先輩は肩をすくめた。

「任務内容自体は第2と第3で大きな差はない。
……が、寮の設備と給料に関しては、どう考えても第2騎士団のほうが上だな」

苦笑しながら、枝を放り投げる。

「まあ、現実ってやつだ」