夜明けが世界を染めるころ

その言葉に、店の空気が少し和らいだ。
だが――完全に納得した、というよりは「筋は通っている」という反応だ。

年配の職人の一人が、腕を組んだまま口を開く。

「理想としては分かりますが……実際に売れるかどうかは、また別の話ですな」

穏やかな声。
けれどその視線は、どこか探るようだった。

「若いお嬢様の考えとしては、立派ですが」

――やはり、そう来るか。

私は表情を変えず、静かに頷いた。

「ええ。理想論だと思うかもしれません」

そう前置きしてから、続ける。

「ですが、市民の方々が“初めて宝石を買う瞬間”を想像してみてください」

店内に、再び静けさが落ちる。

「生活費を切り詰めて、
大切な人への贈り物として選ぶかもしれない。
あるいは、自分への小さなご褒美かもしれません」

ふっと息を吸う。

「そのとき比較する相手は、貴族ではありません。
隣の店の値札でも、宮廷の宝石でもない」

視線を上げる。

「“買って後悔しないかどうか”
それだけです」

しばしの沈黙。
先ほどまで腕を組んでいた職人が、ゆっくりと腕を下ろした。

「……確かに」

誰かが、小さく呟く。

「我々は、つい上ばかり見ておりましたな」

完全な称賛ではない。
けれど、否定でもない。

――それで十分。

私は一歩も引かず、しかし押しつけることもせず、その場に立っていた。

理解は、これから積み重ねればいい。
大切なのは、“誰のための商いか”を、今ここで共有できたこと。

隣で、セナが何も言わずに立っている。
その沈黙が、私には心強かった。

「では」
私は静かに締めくくる。

「その“初めて”を裏切らない品を、一緒に考えましょう」

もう一度、店の者たちが頷いた。
今度は、先ほどよりも少しだけ真剣な目で。