夜明けが世界を染めるころ

「違う!
ユウリのことは信用してるし、信頼もしてる。
でも私は、そんな立派な人間じゃない!」

息を吸う間もなく、言葉があふれ出る。

「私が頑張っているのは、全部自分のため。
私は、私の利益ばかり考えてる。
だから感謝される資格なんてない」

「ユウリのことだって同じよ。
代々執事の家系で育ち、とても優秀だと聞いていた。
実際に接してみて、その通りだった」

「だから私は、そばに置きたいと思った」

声が、わずかに震える。

「そのために、良いところを見せようとしただけ。
全部……全部、計算なんだよ――」

――あ。

言ってしまった。

長年、胸の奥に閉じ込めてきた本音。
きっと軽蔑される。

怖くて、ユウリの顔を見ることができない。

どうしよう。
もし「執事を辞める」と言われたら……。

その時は、退職金をたんまり渡すしかない――
そんな現実逃避じみた考えが、頭をよぎった。

「お嬢様」

優しい声に、はっとして顔を上げる。

「……なんで、笑ってるの?」

目の前のユウリは、軽蔑するでも、呆れるでもなく。
ただ、心から嬉しそうに微笑んでいた。

「嬉しいからですよ。
お嬢様が、私のことを信用し、信頼してくださっていること。
それに――優秀な私を、そばに置きたいと言ってくださったことも」

「……どうして?」

なぜ、そんなふうに思えるのだろう。

私は今、醜い本音をさらけ出した。
自己都合で、彼を縛ろうとしていたというのに。

「お嬢様は、少し勘違いをなさっています」

ユウリは穏やかに言う。

「私は、お嬢様の――
思慮深く、物事を客観的に見てくださるところが好きなのです」

「家柄でも、立場でも、外見でもなく。
私自身を見て、仕事ぶりや人柄で評価してくださる」

「そんなお嬢様に『そばに置きたい』と言われて、
嬉しくないわけがありません」

握られていた手に、ユウリがそっと力を込めた。

あたたかくて、優しくて。
とても大きな手だった。

「……ありがとう、ユウリ。
でも、この話をしたら……あなたの人生にまで踏み込むことになる」

泣きそうになるのを必死にこらえながら、ようやく口にする。

「それは、今さらですよ。お嬢様」

微笑みは変わらない。

「もうお嬢様は、私の人生の一部です。
むしろ――お嬢様なくして、私の人生は語れません」

「ですから」

その瞳に、揺るぎはなかった。

「私にも一緒に背負わせてください。
貴女一人に、背負わせはしません」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

「……ユウリ」

「それでは優秀な私に、相談したいことがありますね?」

そう言って、にこりと笑うユウリに――
私は、静かに頷いた。