夜明けが世界を染めるころ

「とりあえず今僕から話せるのはここまでだ。
君はこの事実を知って、どうする?」

少し間を置き、覚悟を込めて答えた。
「それはもちろん…止めるべきです」

「それもそうだ」
サーフェスは静かに頷き、グラスの中の赤い液体を揺らす。

「ただ手段がわかりません。対抗する手段を探さなければなりません」
自分でも落ち着いて話そうとしているが内心の焦りが微かに滲むのがわかる。

「そう、君は強いね」
ぽつりと、サーフェスが言った。

思わず見つめ返す。
「サーフェス…貴方は、どちら側ですか?」

真っ直ぐ見つめる私に、サーフェスは一瞬キョトンとした表情を浮かべた。
そしてクスクスと笑い始める。

「そうだね。そこははっきりさせておかなければならないね」
声には柔らかさが混じるが、仮面の奥に潜む冷静さは変わらない。
「もちろん僕も止めたい側だ。魔女の雫も、紅血も、蝶の会も――壊してしまいたい」

私は胸の奥で少しだけ安心する。
「そうですか…」
味方と捉えていいのか、まだ完全には安心できない。

サーフェスは遠くをみながら部屋の静けさを楽しむかのように言った。

「また1ヶ月後…13日。
蝶の会が開かれる。
その時に僕と共闘するか考えておいてくれ」

「え?」
まさかそんな提案をされるとは思わず、私は目を丸くした。

「1人より2人の方がいいだろう」
サーフェスの声には、微かな含みがある。

「それもそうですね。
考えておきます」
私はは小さく頷き、心の中で覚悟を決める。
サーフェスと別れ、部屋を後にした。


部屋から出ると、すぐにセナが駆け寄ってきた。
「ルナ…大丈夫でしたか?」
心配そうな瞳が、夜の光に揺れている。

私は小さく首を振る。
「ええ、大丈夫」
声には落ち着きがあるが、胸の奥ではまだ冷たい緊張が残っていた。

「何かありましたか?」
セナの声が、夜の静けさに少し響く。

私は一瞬、振り返りかけたが、禍々しい視線を背中に感じ、すぐに顔を前に向ける。
「とりあえずもう出ましょう。用は済んだから」

言いながら、馬車へと駆け寄る。
冷たい夜風が頬を撫で、窓越しに差し込む月光が、馬車の車輪に影を落とす。
禍々しい魔女の雫が、自分を見つめているような感覚――背中に重く感じる視線を振り切るように、急ぎ足で乗り込んだ。

ユウリとも、温室から少し離れた場所で合流する。
「遅れてすみません」とユウリ。
「大丈夫、来てくれてありがとう」
私は短く答え、馬車の扉を閉める。

馬車が動き出すと、街灯の光が窓を滑り、影が揺れた。
私は窓の外をぼんやり見つめ、胸の奥で禍々しい気配を感じ続ける。
紅血や魔女の雫――あの部屋で見たものの影は、まだ消えていない。

ユウリとセナの2人の存在が、かろうじて心の支えになっている。
だが、13日の蝶の会までに、何が起こるのか――その不安が、私の胸を締め付ける。