夜明けが世界を染めるころ


見つからないうちにセナと合流しょう。
そう思ったところで誰かとぶつかった。

「申し訳ありません」と口にし顔をあげる。目の前には仮面にスーツ姿の男がいた。

「大丈夫? ねえ、君、一人で来たの?」

一瞬、心臓が跳ねる。

「いえ、連れがおりますので…」

そう言って回避しょうとしたが

「そう言わずにさ。さっきの魔女の雫気にならない?」

その言葉にビクッと反応してしまう。
黙って足を止めると男は話を続ける。

「俺 あの魔女の秘薬持ってるんだよ。せっかくだからこの後抜け出して試飲しないかい?」

胡散臭い誘い文句。
だが少し話に乗るふりをする。

「魔女の秘薬は…先程別の方が落札しましたよね?そんな何本もあるのですか?」


「そうだな…あるところにはあるね」

含みのある言い方だな。


「先ほど、オークションの方がおっしゃっていましたが……寿命が延びるとか。そんな、途方もないものなのでしょうか」

探るように問いかけると、男は薄く笑った。

「さあね。それも含めて、俺と楽しい夜を過ごして確かめてみる?」

——だめだ。時間の無駄だ。

そう判断し、断りの言葉を口にしかけた、その時。

「おや、レディ。ここにいたのか」

低く、よく通る声が割って入った。

「困るな。彼女には先約がある。……私だ」

そこに立っていたのは、先ほどのオークションで落札した人物。
父と話していた、あの謎の男だ。

艶のある黒髪。金と黒を基調とした仮面。仕立ての良いダークブラウンのスーツ。
一目で、ただ者ではないとわかる佇まいだった。

「な、なんだ君は……」

「それはこちらの台詞かな。
根拠もないことをいってレディを惑わすのは感心しない」

仮面越しでも伝わる圧に、男は言葉を失い、逃げるように立ち去った。

「……ありがとうございます」

「いえ。この手の会には、隙を狙う輩も多い。どうかお気をつけて」

せっかく得た接触の機会だ。
少しでも「蝶の会」と「魔女の雫」について探りたい。
だが、警戒されては元も子もない。

慎重に、しかし無知を装いすぎないよう言葉を選ぶ。

「助かりました。まだ不慣れなもので……
貴方は、この会にお詳しいのですね」

「まあ、それなりに」

素っ気ないが、拒絶ではない。

「よろしければ、少しご教授いただけませんか?」

一歩、踏み込みすぎただろうか。
それでも——この機会を逃すわけにはいかない。