夜明けが世界を染めるころ



ユウリが一人で蝶の会に潜入しようとしていることには、薄々気づいていた。
長い付き合いだ。彼が私を危険から遠ざけるため、単独で動こうとすることくらい、簡単に想像がつく。

だから私は、別ルートで調べ始めた。

蝶の会は、貴族たちが集う秘密の社交場。
表向きは優雅でも、裏では金と欲が渦巻いている。
そこで目をつけたのが、宝石に異常な執着を見せ、金の出入りが激しくなった貴族たちだった。

その中でも特に目立ったのが――
悪評高い、ゾーナ伯爵。

立場だけは立派だが、爪が甘い。
情報を隠すのも、人を見抜くのも下手な男。

だから、セナに調べさせた。
多少……強引な手を使って。

南の温室。
“羽化”の夜。
合言葉は「白い蝶」。

蝶の会は月に一度だけ開かれ、参加には招待状が必要。
その正体は――宝石だった。

準備は抜かりなく進めた。
仮面、ドレス、身分を偽るための細工。
すべて整えた上で、私は確信していた。

一人で行かせたりしない。

案の定、ユウリは会場へ向かう途中で見つかった。
私たちは同じ馬車に乗り込む。

「お嬢様は、どうやって調べたのですか?
 危険なことはしていませんね?」

ユウリが真剣な目でこちらを見る。

「蝶の会が貴族の集まりだって聞いたから。
 宝石に魅了されて、金遣いが荒くなった貴族……
 ゾーナ伯爵、覚えてる?」

「ええ。裏で色々やっていると噂の。
 ただ、伯爵という立場上、手出しができないと」

「だから、脅したの」

さらりと言うと、ユウリが絶句する。

「あ、でも私じゃないよ。セナがね」

ちらりとセナを見る。

「正体が割れないよう、背後から処理しましたので問題ありません」

「……そういう問題ではありません」

ユウリは深くため息をついた。

「それで、蝶の会に入るための招待状は――これ」

銀の箱を開け、宝石を二つ取り出す。
一つはローズマリー夫人から回収したもの。
もう一つは、ゾーナ伯爵から手に入れたもの。

「危険はありませんか?」

「大丈夫。黒いモヤは見えないし、直接触らなければ問題ない」

そう前置きしてから、続ける。

「それで、この宝石を調べてみたんだけど……」

「また危険なことを……」

心配するユウリに、私は微笑んだ。

「ちゃんと成果はあったよ。
 肉眼じゃ見えないけど、特殊な赤外線を通すとね。ほら」

特殊なルーペを差し出す。

「これは……」

「でしょ? 蝶の模様。
 これで招待客を判別しているみたい」