夜明けが世界を染めるころ


「パーティ用の装いなのはね」
仮面を指先でくるりと回す。

「“招待された側”として入るため」

「……囮、ですか」

「交渉役、観察役、場合によっては証人」
淡々とした声。
「私は、無力な貴族令嬢のふりをする」

その覚悟に、胸が締めつけられる。

「……条件があります」
ユウリは低く告げた。

「何?」

「必ず、私とセナの視界に入ること。単独行動はしない
宝石には、絶対に触れないことです。今回はあくまで下見です」

一瞬の沈黙。

そして、お嬢様は頷いた。

「約束する」
真剣な眼差しで。
「だから――あなたも約束して」

「?」

「一人で全部背負わないこと」

夜風が吹き抜け、ドレスの裾と外套が揺れる。

セナが短く言った。

「時間です」

ユウリは仮面をつけ直し、二人を見る。

「……行きましょう。馬車は裏門に用意してあります」
低く、確かな声で。


3人は同時に歩き出した。

――今夜、蝶は羽化する。
だがそれが、自由の象徴か、終焉の合図かは、まだ誰も知らない。