夜明けが世界を染めるころ

ティアナお嬢様は、どこにいるのだろう。
はやく会いたい――。

アドルフ当主の元を後にし、庭に出てみるが、やはりお嬢様はいらっしゃらない。

ふと庭園の花々が目に留まる。
小さく咲く鮮やかな花に思わず足を止め、声をかける。

「あの、これ、少しいただけますか?」

庭師のトーマスさんが微笑み、花ばさみを差し出す。
「ああ、君はお嬢様と一緒に庭園の手入れを手伝ってくれた子だね。いいよ、持っていきなさい。」

「ありがとうございます」
礼を言って花を受け取り、手にそっと抱えながら走り出す。

そのとき、視界の片隅に見慣れたシルエットが現れた。

「あっ、いた!」

「ティアナお嬢様!」
思わず声を張る。

「どうしたの?そんなに急いで」
きょとんとした表情で振り向くお嬢様。

「お嬢様にご挨拶をと思いまして……」
息を整えながら言葉を続ける。

「あ、そっか。今日で最終日だもんね。
短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」
ニコリと微笑み、手を差し出して握手を求めるティアナお嬢様。

夕焼けに染まった髪が鮮やかで、美しい。
年下なのに、その立ち振る舞いは大人びて見える。
思わず息を飲み、胸が高鳴る。


伸ばされたティアナお嬢様の手をそっと取り、跪く。
予想外の行動に、ティアナお嬢様は目を丸くした。

その手は、剣術の訓練のせいか、わずかに豆ができている。
頑張り過ぎてしまう優しいお嬢様が、未来を笑顔で歩けるように――。

「貴女が望んでくださるその時まで、私は貴女の執事として忠誠を誓います」

反対の手で、ローズマリーの花をそっと差し出す。
大事そうに受け取るティアナお嬢様。

「ありがとう、これからよろしくね、ユウリ。
嫌だと言っても、執事をやめさせてあげないからね!」

二人を包む庭園には、柔らかな夕日が差し込んでいた。
遠くの樹々の影が長く伸び、穏やかな風が花の香りを運ぶ。

イタズラめいた微笑みを浮かべるお嬢様に、自然に笑顔で応える。

「もちろんです」

ローズマリーの花言葉――忠誠。
小さな花に込められた決意と、夕焼けに染まる庭園の温かさが、2人の未来を静かに祝福していた。