夜明けが世界を染めるころ

ティアナお嬢様はそっとナナ令嬢に耳打ちをする。
その瞬間、ナナ令嬢はその場に崩れ落ち、泣きながら言葉を詰まらせる。

「ナナ令嬢は、ユリア令嬢とバラが被ってしまい、それが悲しかったのですね。
そして、兄上の興味を引きたかった……。
だから、どうか、そんな可哀想なナナ令嬢を許してあげてください」

お嬢様はわざとらしく小首を傾げ、可憐な笑みを浮かべる。

「なんだ、そういうことだったのか。
それは可愛らしいことだ。ナナ令嬢、今回の件は気にしなくていい。
私に魅力があるせいでな」

マルク様ははははっと笑い、ナナ令嬢の肩に手を置く。

「はい……」
ナナ令嬢はか細く答える。

「では、しっかりとユリア令嬢に謝罪をしてくださいますか?
紳士として当然ですよね?」
ティアナお嬢様の鋭い視線がマルク様に注がれる。

マルク様は頬をかきながら苦笑し、
「そうだな、すまなかったな、ユリア令嬢」

「すみませんでした」
ナナ令嬢も深々と頭を下げる。

その様子を見た他の令嬢達も、次々に謝罪し、場は自然と丸く収まった。


「ティアナお嬢様、少しお聞きしても?」
ユウリは気になっていたことを確かめるため、そっとお嬢様を引き止める。
ちょうどその場には、先ほど濡れ衣を着せられたユリア令嬢もいた。

「先ほどはありがとうございました」
深々と頭を下げるユリア令嬢に、ティアナお嬢様は微笑み返す。

「いいのよ。ちょっと真実を曲げてしまったけれど、丸くおさめるにはこれで良かったかしら?」

「ええ、もちろんです。ありがとうございます」
ユリア令嬢の声には安堵が滲んでいる。

「と、いいますと?」
ユウリが疑問を口にする。

「まず、ナナ令嬢が持ってきたバラの本数が17本。
この意味、わかる?」

その問いにユウリはハッとする。
バラには色ごとの花言葉があるが、本数にも意味があることを思い出す。

「まさか……」

「そう、17本は【絶望的な愛】。あまり良い意味ではないのよね。諸説あるけどこの国では割と有名よね」

ティアナお嬢様は軽く首を傾げ、しかし目は真剣そのものだ。

「はい、それをナナ令嬢に指摘したのです。
同じバラを持ってきていたので、何本か譲ります、と言ったらあの状況になっていたということです。
私は市民出身ですが、両親が事業に成功したこともありお茶会に呼ばれました。
なので、私の発言に気を悪くされたのですね。
良かれと思ってやったのですが……」