夜明けが世界を染めるころ

私はマルク様に挨拶に向かった。

「本日より5日間、マルク様の執事としてお仕えさせていただくユウリと申します。
どうぞよろしくお願いいたします」

そう述べ、深くお辞儀をする。

しかしマルク様はこちらに視線を向けることもなく、ソファにふんぞり返ったまま、茶色の髪を指先でくるくると弄っていた。

「ああ」

それだけだった。

たった一日付き従っただけで、この人の性格はおおよそ理解できてしまった。

――とにかく、怠け癖のある方だ。

自室に姿が見えなかったため、家庭教師と勉強中かと思い、私は勉強部屋を訪ねた。
だが、返ってきた言葉は予想外のものだった。

「マルク様は来ていませんよ。またサボりでしょう」

家庭教師はそう言って、深いため息をつく。

その反応から察するに、これが一度や二度ではないことは明らかだった。

「……私が探してまいります」

そう告げ、邸内を回る。

そしてようやく見つけたのは――
庭先の日向で、実に気持ちよさそうに眠っているマルク様の姿だった。

「マルク様。勉強のお時間でございます」

声をかけると、彼は片目だけを薄く開き、ひどく面倒そうに口を開く。

「はあ……調子が悪いって言っといて」

どう見ても、体調が悪そうには見えない。

私は慎重に言葉を選んだ。

「しかし、家庭教師の方もお待ちですし――」

その瞬間、マルク様ははっきりと不機嫌な表情でこちらを睨んだ。

「あのさ。お前、勘違いしてるだろ」

胸の奥が、わずかに冷える。

「俺が主人。
お前は俺の下僕だ。
言う通りにしとけよ」

言葉遣いは軽い。
だがその中には、敬意も責任も欠片ほども感じられなかった。

――ああ、そういう方なのだ。

これ以上何を言っても無駄だと判断し、私は静かに一礼する。

「……承知いたしました」

そうしてそのまま、家庭教師のもとへ戻った。

胸の奥に残ったのは、怒りでも悲しみでもない。

ただ、

執事として仕えるべき“主人”ではない――
そういう、はっきりとした確信だけだった。