夜明けが世界を染めるころ

皆がそれぞれの場所へ散っていき、気づけば、その場に残っているのは私とセナだけだった。

風が、まだ熱を帯びた地面を撫でていく。
剣を交えた名残が、空気の奥に微かに残っている。

「……本当に、行くんですね」

セナがぽつりと言った。
止めるための言葉ではない。確認だ。

「ええ」

短く答えると、セナは小さく笑った。

「あなたは昔から、決めたら揺れませんでしたね」

そう言いながらも、その視線は私を真っ直ぐには見ない。
彼の手が、無意識に自分の掌を握りしめているのが分かった。


「守れなくなるのが、怖い?」

私がそう聞くと、セナは少しだけ目を見開いた。

「……正直に言えば」

それだけ言って、言葉を切る。
そして、ゆっくりと息を吐いた。

「守ることしか、知らなかったので」

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
彼はずっと、私の前に立ち続けてきた。
それが正しいと信じて、疑わずに。

「でも」

セナはようやくこちらを見る。

「あなたが、自分の足で立つ姿を見て……
それを邪魔する資格は、もうありません」

その声は震えていない。
けれど、その分だけ、覚悟の重さが伝わってきた。

私は一歩近づいた。

「セナ。あなたは、何も失っていないわ」

彼は少し驚いたように目を瞬かせる。

「守る形が変わるだけ。
……それに、私はもう守られるだけの存在じゃない」

一瞬、セナの喉が小さく鳴った。

「……負けましたね。剣でも、言葉でも」

そう言って、彼は苦笑する。

その笑顔を見て、胸の奥に溜まっていた何かが、ようやくほどけた。

「ありがとう、セナ」

それだけで、十分だった。

彼は何も答えず、ただ深く頭を下げる。
その仕草は、忠誠ではなく――別れでもなく。

(対等な、始まり)