夜明けが世界を染めるころ

そして
決闘を終え、私は剣を収めた。

目の前に立つセナは、確かに敗れたはずなのに、不思議なほど穏やかな顔をしていた。
悔しさも、怒りも、そこにはない。あるのは――覚悟を終えた人間の静けさだった。

(……ああ、この人はもう、答えを出している)

「セナ。
私は、私の道を進む」

そう告げた瞬間、胸の奥に残っていた最後の迷いが、すっと消えた。
止められるかもしれない、責められるかもしれない。
それでも――言わずにはいられなかった。

セナは一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。

「はい。もう、止めません」

その声には、長い時間抱えてきた葛藤が、静かに溶けていく響きがあった。
彼はずっと、私を守るという役目に縛られてきたのだ。
それが正しいと信じ、同時に、それが私の足枷になっていることにも気づいていて。

だからこそ、この決闘だったのだろう。

私は手を差し出した。
セナは一瞬だけ躊躇い、それから、以前よりも少しだけ軽い力で私の手をつかんだ。

(……これでいい)

「もっと悔しがる顔が見たかったのになぁ。でも楽しかった」

テオの意地悪な声に、セナは分かりやすく顔を歪める。
その表情を見て、私は少しだけ安心した。


「私も久々に剣を握ったわ。
……また、ちゃんと訓練しようかしら」

ルイが手を頬にあてながら楽しそうに告げる。

「ルイさんは、ブティックの仕事に専念してください」

セナはいつもの調子でそう言った。
けれど、その声はどこか柔らかい。

「俺も! あんな緊張感のある戦い、久々だ! 楽しかったぜ!」

レオの言葉に、セナは小さく笑った。

「……狂乱の金獅子、でしたね。正直、ゾッとしました」

その冗談めいた言い方の奥で、
セナがレオの“過去の強さ”を思い出したのだろう。

「よかったー……勝てたー……」

アレンが地面に座り込むのを見て、ようやく実感が湧く。
私は、勝ったのだ。
そして同時に――私は手放した。

「そこの騎士団員2人。今後の訓練、覚悟しろ」

セナのその言葉は、冗談めいていながらも、どこか2人の成長を喜んでいるようだった。

(セナは諦めた、私を危ないことから遠ざけて何も知らないお姫様にすることを。
そして私も――もう、誰かの庇護の中に戻ることはない)

それぞれが、それぞれの道へ進む。
この決闘は、そのための、静かな区切りだった。