夜明けが世界を染めるころ

3人がかりとはいえ、まだ余裕はあった。

剣を振るたび、感触が正確に返る。
距離、重さ、呼吸の間。

すべて、手の内だ。

魔宝剣の弱体化。
感覚からして、せいぜい5分。

――それまで凌げばいい。

アレンの雷が走る。

光が弾ける瞬間を読み、
剣身を斜めに滑らせる。

放電が刃を伝い、地面へ逃げた。

ロベルトの重い一撃。

剣ごと叩き潰す勢いだが、
踏み込みは遅い。

衝突の瞬間、力を殺し、
体軸をずらして受け止める。

衝撃が腕を痺れさせるが、
耐えられないほどではない。

そして――彼女。

風をまとった斬撃が、
音より速く迫る。

視界が歪む。

だが、風の“芯”は見える。

一歩、半身。
紙一重でかわす。

刃が頬をかすめ、
冷たい気流だけが残った。

呼吸は乱れていない。
鼓動も、平常だ。

判断も、鈍っていない。

(もう少しだ)

魔宝剣の力が戻れば、形勢は逆転する。

氷が完全に展開できれば、
風も雷も押し切れる。

その瞬間に――決める。

そう思った、次の瞬間。

足裏に、違和感。

地面を踏みしめた感触が――ない。

重い。

いや、違う。

動かない。

拘束。

筋肉ではない。
地面そのものが、足を掴んでいる。

これは――。

「……テオ?」

思わず、声が漏れた。

「せいかーい」

どこか気の抜けた声。

だが、気配は完璧に消えていた。

殺気も、魔力の揺らぎもない。

息を潜め、
魔力を抑え、
この一瞬のためだけに――待っていた。

(遠征のはずじゃ……)

背後で、影が蠢く。

地面に走る細い赤い光。
拘束魔法。

そこまで、仕組まれていたのか。

思わず、口の端が上がる。

「……なかなか、ずる賢い」

だが、まだだ。

足が動かなくても、
上半身は自由。

剣は振れる。

魔宝剣の光も、
確実に戻り始めている。

――勝てる。

そう、思った。

「今よ」

凛とした声。

空気が、変わった。

その瞬間。

ロベルトが作った土壁から
気配が2つ、同時に現れた。

「……ルイさん?」

視線の端。

軽やかに着地する影。
ローズクォーツ。
剣先が淡い薔薇色に輝き、
舞う光粒が幻想的な残像を描く。

敵の視界と感覚を狂わせる薔薇。

タンザナイト公爵家に仕えていた、
元・王国騎士団。

動きが、洗練されすぎている。

「……レオまで?」

反対側。

獣のような圧を纏って立つ男。

“狂乱の金獅子”。

ペリドット
大剣が赤熱する。
爆ぜる火花が炎へと変わり、刀身を包み込む。

剣を構えるだけで、
周囲の空気が軋む。

さすがに、息を呑んだ。

(ここまで、使うか)

左右には、すでにアレンとロベルト。

背後には、テオ。

前方には、彼女。

完全な円。

逃げ道は――ない。

理解した。

これは奇襲でも、
思いつきでも、
賭けでもない。

最初から組まれた、
完璧な包囲陣。

彼女が、剣を高く掲げる。

風が集束する。

空気が、軋む。

渦が生まれ、
地面の砂が舞い上がる。

逃げ場を削り、
視界を奪い、
意識を削り――

狙いは、ただ一つ。

俺だけ。

(……ああ)

これは、もう。

避けられない。

剣を構えたまま、
俺は静かに息を吐いた。

「……完敗だな」

力ではない。
剣技でもない。

覚悟と、人の使い方。

彼女は、守られるだけの存在ではなかった。

仲間を信じ、
頼り、
役割を与え、
そして――勝つ道を選んだ。

風が、すべてを飲み込む。

その中心で、
俺ははっきりと理解していた。

――もう、止めることはできない。