夜明けが世界を染めるころ


レースのカーテンの隙間から作業机の上の宝石を淡く照らしていた。まだ街は眠っているというのに、令嬢はすでに仕事を始めている。

布の上に並べられた宝石は10数個。
色も輝きも申し分ない――普通の鑑定士なら、そう判断するだろう。

だが彼女の目には、
そのうち2つだけが、薄い黒いモヤをまとって見えていた。

「……やっぱり」

小さく息を吐き、手袋越しに石を裏返す。
細工は巧妙だ。悪意も、ほとんど隠されている。
それでも、見逃すわけにはいかなかった。

扉が静かにノックされる。

「お嬢様。もう朝でございます」

入ってきたのは、専属執事のユウリ。
銀のトレイには、温かい朝食が整えられている。

「また徹夜ですか?」

責めるような口調ではない。
ただ、ほんの少しだけ眉が寄っている。
髪はきっちり揃えてあり、清潔感に満ちている。

「もう少しで終わるよ」

そう答えながらも、令嬢は石から目を離さない。

執事はそれ以上言わず、机の端に朝食を置いた。
焼きたてのパンとベルガモットティーの香りが部屋に広がる。

「冷める前に、少しでも召し上がってください。
 お身体を壊されては、本末転倒です」

その声音は誠実そのもの。
だが、彼の視線は宝石――特に黒いモヤの立つ二つに、わずかに鋭く向けられていた。

「……これ、また“良くない石”だよ」

令嬢の言葉に、執事は一瞬だけ沈黙する。

「ええ。市場に出回る前で助かりました」

それ以上は語らない。
だが彼はすでに、
この石がどこから来たのか、誰が関わっているのか
調べる算段を頭の中で組み立てていた。

窓の外で、朝の鐘が鳴る。

世界はまだ、何も知らない。
この静かな朝の裏で、
悪意を宿した宝石が、確実に増えていることを。

そして――
それを見抜ける目を持つ令嬢 ティアナ ラピスラズリが世界を救うために奮闘することを。