「拓斗……なんで」
今しがた私の頭を占領していた相手の登場に一瞬思考が止まるも、とっさに前髪に手をやって整える。
ラーメン屋のバイトはなりふり構ってられないくらいなかなかにハードで、汗もかくし髪も乱れるのだ。
油と汗でべとべとな髪は、額に張り付いて思い通りにはいかないけど、どうにかそれなりにはなっていると思いたい。
(もう家に帰るだけだから、メイクだって直してないのに……)
内心で文句を言いつつも、気持ちは正反対に喜んでいる自分を私は認めるしかないのだけど。
「なんでって、自転車パンクしたぁってライン送ってきたのお前だろ」
“したぁ”のところで泣き真似をする拓斗が憎らしくもあり、可愛くもあり、私はむっとふくれっ面を作った。
「あれはべつに……迎えに来てって意味で送ったんじゃ……」
「わかってるよ。コンビニ行く用ができたから、ついでに菜緒の疲れた顔でも拝んどくかーと思って」
「なっ……ひっど」



