妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 しばらくして気づけばアダン様の顔を覗き込んでいた私。その瞬間、彼と視線が重なり合い……私は現実に引き戻された。
 助けられてから、その前までの記憶が思い出せない。何かを話したことは覚えていたが、ちゃんと受け答えできていたかどうかすら把握できておらず、私は不安に駆られた。
 相当私は緊張していたようだ。
 
 アダン様は私に優しく話しかけてくる。
 
「以前セファーから教えてもらった装飾店はもうすぐだ」
「あ……ありがとうございます」

 私は肩を抱かれたまま、軽く頭を下げてぎこちないお礼を告げた。
 店に案内してくださっている感謝と、ぶつからないように配慮してくださっている感謝。それを伝えなければならない、そう思った私の口から出てきたのは、ありがとうという言葉だった。

 流石にありがとうだけでは、気持ちが伝わらない。何に対しての謝意なのか……それを私はきちんと言わなければならないのに。
 しかし気が張っているからだろうか……私の頭はうまく働かない上に、口もうまく回らない。

 自身の心境に困惑しているからか、段々と私の顔は下がっていく。言いたいことがあるのに、言えない。このもどかしさに焦り、思案しようとするが、また何も考えることができず狼狽える……悪循環だった。

 するとそんな時、私の肩に乗っていた手に力が入る。思わず私がアダン様へと顔を向けると、そこには私を温かいまなざしで見つめる彼の瞳があった。
 その瞳を見ると同時に、私は口を開いていた。
 
「あの……注意を払っていただき、ありがとうございます……」

 きちんと言葉ができたことに、私は驚く。今までの狼狽が嘘のよう。無意識に手を口へと持っていった私。一方で……アダン様の口角は少しだけ上がり、目尻は少しだけ下がっていた。
 そして彼の視線が私の肩に向かう。その後、何故か彼は目を大きく見開き、眉間に皺が寄っていく。

 もしかして迷惑だったのだろうか、そんな思いが頭を過った時――。
 
「いや、済まない。女性の肩へと勝手に手を置くなんて……申し訳ないことをした」

 アダン様も無自覚に行なっていたようだ。私はその言葉に目をしばたたかせた後……ふふ、と笑いが漏れる。やっぱり、アダン様も私と一緒なのだ。
 
「いえ、ありがとうございます……嬉しかったです……」

 勢いで話をしたからだろうか。途中から恥ずかしさが勝ってしまい、語尾が段々と小さくなっていく。そして最終的には照れてしまい、我慢できなかった私は俯いていく。
 その言葉がアダン様に聞こえたかどうかは分からない。けれども、私の肩へと置かれた手に……少しだけ力が込められたような気がした。