妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 二人の姿が見えなくなった頃。
 私はゆっくりとアダン様の方へと顔を向けた。すると彼も私と同じ行動をしていたのか、視線がかち合う。美しい瞳に吸い込まれそうになるのを必死に抑えながら、なんて伝えたら良いのだろうか……と考えていた、そんな時。

「私と二人で大丈夫だろうか……?」

 アダン様の声が耳に入ってくる。その声色はどこか心配そうで……きっと私を案じてくれているのだろう。その揺れる瞳を見て、私は悟った。
 
 アダン様も相手()……の反応が怖いのかもしれない、ということに。

 恐怖を感じるのは自分だけではないのだ。改めてそのことに気がついた時、私は目の前が開けたような気がした。『相手の考えていることなんて分からないんだから、君たちはもう少し言葉にするべきだね』……セファーさんの言葉を思い出す。

 怖がっているだけじゃ駄目なのだ。私も一歩を踏み出さなければ。私は恐る恐る訊ねる。
 
「私は問題ありません……むしろ私がアダン様のお隣にいてもよろしいのでしょうか? ご迷惑ではありませんか……?」

 手が、身体が少し震える。相手の気持ちを聞くことがこんなに怖いことだとは思わなかった。
 私がアダン様の顔を覗き込むと、驚いたような表情で口を半開きにしている。そして私の言葉の意味を呑み込めたのか……目をぱちくりとした後、彼は生真面目な顔つきで答えた。

「迷惑なんてことはあり得ない」

 力強い口調で紡がれる言葉。私を見据える強い瞳。彼の表情を見て、私は思う。彼の言葉に嘘はない、と。私の頬が段々と赤くなっているだろう。
 
「……嬉しいです」

 俯きながらもそう伝える。恥ずかしさから小声になってしまったけれど……きちんと聞こえただろうか? 私がおずおずと顔を上げると、頬が少し赤くなり……顔を隠すように手を前に置いている。
 珍しい表情だと思った私は、じっとアダン様を見つめてしまった。
 
「……どうした?」
「いえ、大丈夫です」

 あなたを見ていました、なんて言えない。でもここで顔を逸らすと不思議に思われてしまうのでは……そう思った私は、ニッコリと微笑む。口角が引き攣っていないかだけは、気になった。