妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 「出掛けよう」……そう言って無言のままのアダン。私は無意識に首を傾げていた。
 彼は私をじっと見つめたまま、動かない。私もどうすれば良いのだろうか、と困惑したまま二人で見つめ合っていたその時。

「アダン〜、誘ったぁ? ……ってこれ、どんなことになってるの?」
 
 無口な二人の間にある空気を破ったのは、セファーだった。彼は目をまん丸にした後、何度か瞬きをする。私たち二人が言葉なく視線を重ね合わせていることに驚いたのだろう。
 言い訳になってしまうけれど、アダン様に私もなんて訊ねたら良いのか分からなかった。「いつ」「どこに」「誰と」……訊ねるべきことは沢山あると知っている。
 
 疑問があっても、公爵家では訊ねることすらできなかった私。口を開いたら叩かれていたもの。
 今はそんなことは起こらないと理解しているのだけど……言葉が出ない。
 ああ……私、会話の仕方が分からないんだわ。

 お昼も大体ノアがたくさん話すのを、基本相槌を打って聞いているし……自分から話題を提供することもない。
 またアダン様に迷惑をかけているのね……と少し視線が下がる。こんな時どうしたら良いのかしら。

 悩む私の耳に、セファーさんのため息と声が聞こえてくる。

「エーヴァちゃん、アダンになんて言われたの?」
「あ、出かけようと……」

 言われました、という前にセファーさんが驚きの声を上げた。

「え?! もしかして、それだけしか言ってないの?! もっと言うべきことはあるよね? アダン?」

 セファーさんにジロリと睨まれて、アダン様はバツが悪そうな表情で頭の後ろを掻く。そんな様子を見て、セファーさんはひとつため息をついた。

「僕言ったでしょ? いつ、どこで、誰が、どうする……最低でもここはちゃんと伝えなきゃダメだよって。エーヴァちゃんが困惑してるじゃん!」
「す……すまない……」

 タジタジとしているアダン。セファーは肩を竦めてから、アダンの耳元で何かを囁いた。小さい声なので私には聞き取れなかったが。