妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

「聖務者であるリリス嬢の安寧を……」

 聖務者として神託を受けたリリスが、泉へ飛び込んでから何日が経っただろうか。
 教皇は無表情で泉に入水した彼女の顔が忘れられず、彼女の魂が神の下で安らかに過ごせるように祈り続けていた。
 
 その姿を見た他の聖職者たちも、教皇に倣い皆がリリス平穏を祈っていたそんな時。

 祝詞を終えて顔を上げた若い聖職者の悲鳴が、講堂内に響き渡った。

「静かになさい! どうしたの?」

 部下の一人が若い聖職者を叱責する。けれども、彼は魚のように何度も口を開閉しながら、震える指である場所を指した。
 全員が彼の指差した方を見る。その瞬間、教皇は息を呑んだ。

「なんと……」

 彼の視線は女神ディーデ像にあった。普段であれば、窓から入り込む陽の光で白く淡く輝いているように見える美しき像。けれども今やその輝きは失われ、像の目からは赤黒い何かが垂れていた。
 像が輝いていないのは、窓の外の天気によるものであろうが……あの赤黒いものが何かは分からない。
 
 しかも祈念を始める前にはなかったもの。

 講堂内が静まり返り、全員が変わり果てた女神像の姿に唖然とする。彼は初めて起こる現象に言葉を発することができない。

 誰もが言葉を紡げないでいる状況。だからだろうか、ある一人の聖職者の声が講堂内に響き渡った。

「まるで血の涙みたい……」

 言い得て妙だ。何故こんなことに……。
 我に返った教皇は、いまだに呆然としている聖職者たちに指示をしながら、再度女神像を見る。心なしか、悲しそうな表情でこちらを見ているのは気のせいだろうか。

 教皇は表情を暗くしたまま、血の涙の原因を探るべく、足早に去っていった。